伝奇集 (岩波文庫 赤 792-1)

  • 岩波書店 (1993年11月16日発売)
3.80
  • (162)
  • (148)
  • (209)
  • (23)
  • (5)
本棚登録 : 2661
感想 : 190
4

感想があまりまとまっていない…

たまたま出かけることがあり森下の古書店で購入。
本書は、「八本脚の蝶」で著書が挙げていた3冊のうちの1冊だった。
短編小説集で、1つ1つはかなり短めの小編となっており、その意味では通勤の車内などでも読みやすかった。ただ、短編を読み終えた後、話の筋が理解できないというわけではないが、今の話の含意するものは何だろう…と思い返すと、すぐには解題できないように思われるものもあった。混乱の原因のうちには、(あえてそうしているのだろうし、本質的ではないと思われるけれど、)あまりなじみのないキリスト教やユダヤ教、ラテン語等の学者たちの固有名がたくさん登場したりするだけでなく、架空の著者や著作、架空の世界が、さも現実のことのように記載されていたりすることがあるだろうと思う。
一度読んだだけで、ボルヘスの意図したことを全て読み取るのは困難だと思う。それに、これらの作品に共通するテーマのようなものがあるわけでもないと思う。それでも、おぼろげに、何となく次のような感想を持った。実際の事物や出来事よりも、人はそれらを言語で表すのだから、世界は人間が言葉で想像したり表現したりするそのままであるようにも思われるし、一方で、そうしたやり方にかなりの危うさがある。本書を読んで、もっともらしく思われたり、一方でとんでもなく現実離れした理想や、悲劇を想像しているように感じたりするのは、そのためではないか。「トレーン、…」、「円環の廃墟」、「バビロニアのくじ」、「死とコンパス」や「フェニックス宗」などを読んでそのように感じた。「バビロニアのくじ」「フェニックス宗」は、くじであらゆることを決めることにした社会や、架空の宗教についての話だが、前者はくじでその者の運命を決める仕組みであったはずが、それが複雑になりすぎて、もはやくじがあってもなくても同じような状態になっているように読めるし、後者も架空の宗教(宗派)があると言いながら、ほとんどの人に共通する何かを表しているに過ぎないようにも読めた。
もちろん、私の読み方が間違っているかもしれない。けれど、間違った理解のまま述べると、つまり、何かが存在しているようで、実のところそれはただ現実を言い換えただけのことに過ぎない、ということを表現したかったのかな、との感想を持った。そして言葉というのは、本来そういうものであって、限界でもあるし権能でもあるということなのだろうか。
また、その他いくつかの編に共通するものとして、循環や永劫回帰の要素が挙げられるように思う。「結末」「死とコンパス」「ハーバート・クエイン…」などがそうではないか。最後まで読むと、冒頭に続くとか、逆行して意味付けをするとかいう展開になるようなもの。その意味で、ボルヘスが推理小説にも興味があったという解説があったが、なるほど推理小説も似ている要素があるのかもしれない。ただ、推理小説では唯一の正解しかないのに比べて、ボルヘスの小説では、時間の流れに逆らって、あるいは時間ということをかなり意識してなのかもしれないが、可能性のある(無限ではないかもしれない)たくさんの分岐があることを示唆している。というよりむしろ、循環というより、分岐がテーマといった方が良かったのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月26日
読了日 : 2021年9月26日
本棚登録日 : 2021年9月26日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする