角川書店のPR誌『本の旅人』9月号で、気になった1冊。新井素子さんの『新井素子の?教室』+『新井素子のサイエンス・オデッセイ』のような雰囲気の、キュートな表紙です。
理系女子大学院生・律さんと塾の教え子・理緒ちゃんコンビのお話。「だけど、この水晶振動子は大当たり。一年に五秒もずれないから、…」という理由をつけて、子供のころから同じクオーツ時計を使い続ける律さんの頑固さはイヤじゃないし、「カガクとテクノロジーのショウチョウです!」とはんだごてを魔法の杖のごとく振りかざす理緒ちゃんもチャーミング。各章のタイトルが、「投げ出し墓のバンディット」「恋するマクスウェル」…と洒落ていて、洋モノ好きな私には、わくわく感も十分な。
正直な話、ミステリを読み慣れているかたなら、犯人が誰で、何が起こったのかを直感で当てるのはたやすいです(ニブい私にもわかったので)。でも、本質はそこじゃなくて、ガモフ『不思議の国のトムキンス』や、ネットで簡単に走らせることのできるデータ解析プログラムを、剣と魔法のファンタジー本や人形と同列に(というか代わりに)楽しんで育った人たちの世界の見かたかな、と思います。世の中を見る道具が違うだけで、本質的にはあまり変わらないだろうとは思うけど、そこに一本通る筋、ブレを許さないある種のかたくなさは、日々へらへら感情でかわし続けている人間(←私だ)には気持ちがいい。
…とつらつらカタく書いてしまうと面白くなさそうなのですが、サイエンス周りの話題をほどよくからめて進めていく物語は、どれもコンパクトでウェルメイド。「チェシャ猫マーダーケース」の律さんの啖呵はカッコよくて好き。「四〇二号室のプロフェスール」は、ちょっとロマンチックにまとめすぎかな?と思いますけど…科学にはロマンも必須(笑)。ほんのり甘めのシーンもいい塩梅(笑)で、ちょっと甘めかもしれませんが、この☆の数で。
- 感想投稿日 : 2011年10月3日
- 読了日 : 2011年10月3日
- 本棚登録日 : 2011年10月3日
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