筆者はピアノ調律師。一般向けの調律のほか、コンサートやレコーディングの際にプロ演奏家のための調律を行っている。プロ向けに、自社で管理するスタインウェイのピアノの貸出も行っている。
プロの矜恃を強く感じさせる1冊である。
ピアノの貸出事業は以下のような経緯で始めたものだという。プロの音楽家はほとんどが自分の楽器を持ち歩くが、ピアノは重いためにホールに置かれているものを使うのが普通だ。保管状態が悪く、音程が狂っていたり弾きにくかったりするピアノも多く、短時間で調律師が手を入れ(時には「修理」し)、演奏家が状態を見極めつつ弾くことになるらしい。筆者はこれに疑問を持ち、自分で運搬装置を開発して、自社で完璧に管理したピアノをコンサート開催地まで運ぶ事業を行っている。
一流の演奏家は、音楽性豊かに弾くことを目的とするため、小さい音が美しく響くようにするなど、プロの要求にしたがって調律したピアノは、技量の落ちる人には必ずしも弾きやすいものとはならないのだそうだ。筆者は車に例えて、F1レースカーのようなものと言っている。テクニックがなければ魅力も引き出せないというわけだ。それを支える調律師にも相応の高い技術が必要とされるのだという。
その他、ピアノの構造や歴史、筆者の会社も所有・管理するスタインウェイのピアノの魅力、日本クラシック音楽界の今後の展望など、プロの裏方ならではの話が多く、興味深く読めた。
*作夏、スタインウェイのピアノに触れる機会があった。娘と1曲連弾させてもらった(のだめで有名になったモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」を易しく編曲したもの)のだが、すてきな音色で弾きやすいピアノだった。筆者の言葉を借りれば、さしずめ、オートマ仕様に調律してあったのだろうけれど(^^;)。素人ながら、幸せな気分になりました。今でも思い出すとちょとほっこりする。すてきなピアノだったなぁ。
- 感想投稿日 : 2011年6月18日
- 読了日 : 2011年1月29日
- 本棚登録日 : 2011年6月18日
みんなの感想をみる