地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団

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  • 講談社 (2018年12月6日発売)
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感想 : 74
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「地面師」という言葉を初めて聞いたのは、2018年の積水ハウスの事件の時だった。業界トップクラスの大企業が、「地面師」なるものに騙されて、55億円もの巨額の損失を被ったというのだ。しかしニュースを聞いていても、なぜ大企業がコロリと騙されてしまったのか、犯人らがいったいどんな風に何をやっているのかさっぱりわからなかった。

地面師とは「他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師(大辞林)」のことをいうのだそうである。土地に特化した詐欺師であり、他人の土地をあたかも自分の所有物であるかのように見せかけ、他者に売りつける。
本書はこの「地面師」を追ったルポである。

地面師は、社会の混乱期や、地価が激しく上がる時期に暗躍してきた。
古くは戦後間もない頃。空襲などで土地の所有者一家がそろって命を落とした例も少なくなかった時代である。街は瓦礫の山と化し、役所の書類も焼失しているともなれば、どこが誰の土地だったか確かめようもない。縄を張って「ここは俺のもの」と主張したもの勝ちである。
次にはバブルの時代。地価が狂ったように上がるとなれば、悪い奴がそこに目をつけないはずはない。東京や大阪など、大都市で、組織だった地面師の事件が頻発した。
2つの時代に加えて、現代もまた、地面師の事件が増えている時代である。

地面師は得てして、組織的犯罪であるという。
所有者のふりをする「なりすまし犯」、なりすまし犯を見つけ出し演技指導もする「手配師」、なりすましの偽造書類を用意する「印刷屋」、銀行口座を用意する「銀行屋」、法的手続きを担う弁護士や司法書士の「法律屋」。そうしたさまざまな役割を担う者たちを束ねる主犯格のボスがいる。
狙われるのは、高齢で病気がちであったり、一人暮らしであったり、外国で暮らしていたりしている地主、そして一等地を持っているが、それを積極的に活用するつもりがないような持ち主である。こういった手薄でめぼしい土地に目をつけ、パスポートを偽造するなどして、持ち主になりすますのだ。弁護士などが同席し、本人証明書類を見せられれば、騙されても不思議はない。
そもそも、多くの手が加わって複雑なのが地面師絡みの事件なのだが、時には間に善意のまったくかかわりのない仲介業者が入り、転売が重なって、元々のなりすましが見えにくくなる場合もある。極端な話、なりすまし犯以外は、「自分も騙された」「詐欺なんかするつもりではなかった」と強弁することもできなくはないのである。

本書では、積水ハウスの事件を含めて何件かの事件の概要を追い、何人かの地面師に迫る。
巨額の金が絡むだけに、持ち主になりすますばかりではなく、あるいは持ち主を殺してしまったのではないかと憶測が飛ぶような物騒な事例もある。

売買の過程で詐欺行為があったとしても、その後、所有者が何度か変わり、直近の契約自体に不備がなければ、エンドユーザーに罪を問うわけにもいかない。
一律に白黒をつけられない、不動産特有の曖昧さも事件をややこしくする。

全国に空き家問題が増えつつある昨今。放置されたような、持ち主がはっきりしない土地も多い。
あの手この手で他人の土地を餌に一儲けする地面師が暗躍するには、格好の時代なのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2019年7月15日
読了日 : 2019年7月15日
本棚登録日 : 2019年7月15日

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