三千円の使いかた (単行本)

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  • 中央公論新社 (2018年4月18日発売)
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”人は三千円の使いかたで人生が決まる、と祖母は言った。”

冒頭は、そんな言葉で始まる。
三千円あったら何を買うか。
決して高額ではない、けれども小銭でもない、その程度のお金を手にしたとき、あなたは何を買うだろうか。
本を買う? ちょっとおいしいものを食べる? 少し高めだけど普段にも使えるポットを買う?
日々のそうした小さな積み重ねが、結局はその人の人生の彩りを決める。
だから、三千円の使いかたは人生を決める。たかが三千円、されど三千円である。

本作は全6話、オムニバス形式の連作短編集である。
御厨家の次女、美帆を軸に、祖母の琴子、姉の真帆、母の智子、それぞれの「経済事情」が描かれる。これにプラスして、祖母の若い友人であるフリーターの安生、母の友人で離婚を控えた千さとの話も絡む。
それぞれ、さほど裕福ではない。とはいえ、暮らしに困っているわけでもない。ただ、このままノープランで過ごすほどの余裕はない。それぞれに思い描く未来があるが、それを安心して待つには、いずれもやや手元不如意だ。

著者はイマドキのちょっとした不安をうまく掬い取る。
節約セミナー、リストラ、シニアの就業、熟年離婚、安月給、奨学金返済。
描き出される風景はなるほど「今」の景色だ。
経済右上がりの時代ではない。どことなく閉塞感はあるが、かといって日々にささやかな喜びがないかといえばそんなことはない。

裕福でなければ、いずれにしろ、節約はしなくてはいけない。
けれども節約はそれ自体が目的ではない。
自分の持ちうるものをやりくりして、納得できる暮らしを探っていくのだ。
幸せになるために節約するのだ。

物語は美帆の話で始まり、美帆の話で締めくくられる。
しっかりものの次女である美帆に、最後は意外な試練が訪れるのだが、御厨家の人々が下す決断はいかに。
思いがけない家族の愛に、最後はほろりとさせられる。

身近な出来事のあれこれに、自分だったらどうするか、我が家はどうかとあれこれ考えさせられる場面も多い。

さて、あなたは三千円をどう使いますか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フィクション
感想投稿日 : 2018年7月23日
読了日 : 2018年7月23日
本棚登録日 : 2018年7月23日

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