ルシア・ベルリンの小説は、ほぼ全てが彼女の実人生を題材にしている。そしてその人生が紆余曲折の多いカラフルなものだったために、切り取る場所によって全く違う形の断面になる多面体のように、見える景色は、作品ごとに大きく変わる。
これは、訳者の岸本佐知子による著者の言葉であり、非常に的確に本著を説明している。
これ以上の表現は難しい。この短編集は、詩集のようであり、ショートフィルムのようでもあり、しかし、実際には言葉の才能を備えた芸術家による日記や雑感以上のものではなく、その肩の力が抜けたナチュラルさが、更に魅力を引き立てる。
文体や文章から広がる雰囲気を少し残しておきたいから、下記に引用をしておく。
ー シルバーとトルコ石の素晴らしいネックレスに混じって、認識票が下がっていた。一カ所、大きな凹みがあった。弾が当たったの?いいや、怖じ気づいたり女が欲しくなったりするたび、こいつを噛み締めたのさ。
ー いちど彼から、俺のトレーラーハウスで一緒に横になって休まないかと誘われたことがある。エスキモーなら一緒に笑うって言うとこね。私はそう言って、蛍光グリーンの洗濯機のそばを離れるべからずの文字を指さした。
ー 掃除婦たちへのアドバイス。奥様がくれるものは何でももらってありがとうございますと言うこと。バスに置いてくるか、道端に捨てるかすればいい。原則友達の家では働かないこと。遅かれ早かれ、知りすぎたせいで憎まれる。でなければいろいろ知りすぎて、こっちが向こうを嫌になる。
ー 母は変なことを考える人だった。人間の膝が逆向きに曲がったら、椅子ってどんな形になるかしら。もしイエス・キリストが電気椅子にかけられてたら。そしたらみんな、十字架の代わりに椅子を鎖で、首から下げて歩き回るんでしょうね。
- 感想投稿日 : 2023年11月23日
- 読了日 : 2023年11月23日
- 本棚登録日 : 2023年11月19日
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