赤間山荘事件における真実の一面を描こうと、当時の事実や構造を再確認しながら、ある女性兵士の視点からフィクションを織り交ぜながら語り直させたストーリー。
週末の事か、私はテレビを見ないがとある番組で日本赤軍は重信房子の娘がイスラエル問題を語った事でネットが騒ついていたようだ。重信は、パレスチナを拠点にテルアビブ空港乱射事件に関与した。本著の赤間山荘事件は、日本赤軍ではなく、連合赤軍。共にブント、赤軍派の流れを汲む。こちらは永田洋子が有名で、私は彼女の書いた『十六の墓標』も読んだが、毛沢東思想を根拠とした自己批判、総括によるリンチがクローズアップされる。独裁私刑によって自壊しつつあった所に、事件を迎えた。
主人公は、当事者である。いや、当事者か否か、その主観、客観、二つの視点に媚びりつく想念の葛藤や連鎖が小説の見どころでもある。関係性に影響を及ぼし、一つは自我として自らの解釈に折り合いをつけながら自身が背負う人生となり、もう一つは他者の人生の軌道に影響を与える。時間軸で抜き取ったこの関係性の揺らぎをメタで台本としてトリミングしたのが小説であり、人間ドラマだという事だろう。
暴力で支配する。私的独占を排し、公共の福利を求めた思想において、一人や二人の犠牲は取るに足らないのか。思想改善なら殺してはならない。粛清は合理主義か。犠牲の多寡が判断軸ならば、基準はその層別と識別において主観。自己批判の前に、自己矛盾、思想自体が矛盾したものだと気付かねば、やがてエネルギーは主観、客観ともに自己正当化の立証に費やされていく。純粋な理想を求めた私的欲求という、動物であるが故の肉体の限界と葛藤ゆえに。
とてつもない。小説の更なる可能性を感じた。
- 感想投稿日 : 2023年10月15日
- 読了日 : 2023年10月15日
- 本棚登録日 : 2023年10月15日
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