記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社 (2001年1月19日発売)
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最近記憶力がなくて本当に困っているので、タイトルに惹かれ、少々古い本ではあるが手にとった。
面白かったが、タイトルは釣りっぽい。

タイトル、記憶力を強くすることに主眼を置いているようで、
9割は「記憶」に関しての脳科学でわかっていることの紹介であった。
8章のうち、本当に「記憶力を強くする」ことについて書かれているのは1章(第6章)のみ。
理屈を知った上での方法紹介なので説得力はあるけれど。

私は素人(一応理系)だが、とても読みやすかった。
ところどころ、「ややこしくなってきたので」といってまとめてくれるのがありがたかった。
あと、例え(新しい神経回路を作る際のシナプスにおける事象と電車の乗り入れや本数増加等)がうまい。

「知能のドーピング」には私は賛成しない。
なんだか気持ち悪いから。
困った時(アルツハイマーなど)にだけ服用したほうがいいのではないか。

2001年初版以降、脳科学の進歩が気になる。最新の研究成果の本も読んでみたい。

私の最近のひどい物忘れは、きっとストレスによるものだと思った。
また加齢とともに、神経細胞は減るが、神経回路は豊富になり、記憶力の減退につながらないとの話は希望が持てる。
心の余裕を忘れず、いろいろなことを関連付けながら、覚えること。
好奇心と復習、継続を忘れずに地道に頑張ろうと思う。

---以下備忘と整理のためのまとめ(長文)

【脳における記憶の仕組み ミクロな話】
記憶は、側頭葉から海馬に情報が送られ、海馬に一時保存され、そこで取捨選択、統合などをされ、一部が側頭葉に返される。
記憶には神経細胞が関わっている。
神経細胞同士のつながりをシナプスという。
伝える側の軸索に流れた電気信号が、シナプスにおいては化学物質を放出し、伝わる側の樹状突起では化学物質が受け取られ、またそれが電気信号となって伝わっていく。

記憶することは、神経細胞のつながり方(神経回路)が変化すること。
一つの神経細胞は複数の神経回路に関わっている、つまり使い回されている。
そのことで記憶同士が相互作用し、間違いも起こすが、創造も引き起こす。

その過程で、記憶力が増強する、とは、その電位がupし、シナプス伝達の効率がupすること。
そしてその効果は(一時的なものではなく)持続する。
それをLong-Term Potentiation 略してLTPと呼ぶ。
逆にそれを弱めることをLong Term Depression(LTD)と呼ぶ。
記憶にはLTPとLTDのバランスが大切。

記憶には様々な階層に分かれており、それぞれに特化した記憶の年齢がある。

浅い順に、エピソード記憶、短期記憶(ここまでが顕在記憶ここからが潜在記憶)、意味記憶、プライミング記憶、手続き記憶。
深い方がより生命維持に関わる重要なもの、浅いほうが高度な内容になる。
幼児期は深いところのものから覚え始め、高齢になった際の痴呆は浅いところから起こる。
この中で海馬はエピソード記憶と意味記憶に関わる部分に深く関係している。
短期記憶とプライミング記憶は大脳皮質、手続き記憶は線条体と小脳。

脳の個性を保ち続けるために、基本的には神経細胞は増殖しない。
ただし海馬における情報の入り口となる歯状回の顆粒細胞のみが増殖する。
それが増殖するということはつまり、海馬に入ることができる情報が増強され、記憶力が増強されると言える。

【記憶力増強のために、具体的なマクロな話】
ストレスを与えるとホルモンのバランスが崩れLTPが形成されにくくなる。アルコールも同様。
扁桃体から生まれる情動もLTPが起こりやすくなるので、気持ちが動いた時には記憶しやすい。

神経細胞の総数は歳とともに減っていくが、シナプスの数が反対に増えていく。
神経回路は年齢を重ねるに従って増加する。
若い頃よりも歳をとったほうが記憶の容量が大きくなる。
歳のせいで覚えが悪くなっているのではなくて、覚える努力を怠っているにすぎない。

記憶するときはその年齢に見合った記憶の仕方がある。
言語、絶対音感、運動能力などは幼いときでないと手に入らない、覚えにくい。
中学生ぐらいまでは意味記憶の能力がまだ高いが、
そこからはエピソード記憶が優勢になってくる。
それは記憶力が落ちたのではなく、記憶の種類が変わったと言える。
自分の記憶についてよく理解してそれに応じた勉強方法を取るべき。
歳をとってエピソード記憶が発達してくると、論理立った記憶能力が発達してくる。

海馬がθ波のリズムに乗るとLTPが起こりやすくなる。
θ派が起こるのは初めての場所、初めての人にあった時など刺激の多い環境にいるとき、
また興味や好奇心を持つことによっても起こる。
そういった環境はLTPを起こりやすくするだけでなく、歯状回の顆粒細胞も活発に増殖を始める。
記憶力up→好奇心up→記憶力up
また面白い、楽しいという情動が起こり、扁桃体が働くことでLTPが起こりやすくなる。

ストレスをためず、マンネリ化せず、適当な緊張感を保ちながら勉学に励むべし。

ストレスは記憶の障害になるが、記憶力が高いとストレスにも慣れやすくなる。
記憶力が高いことはストレス軽減にも重要。

事象と事象が連合され(関連付け)ると、閾値より低い刺激でLTPが起こる。
物事を関連づけるとは、よく理解すること。
対象を単なる記号として覚えるのではなく、その真理を発見すること、法則性を見抜くことで記憶しやすくなる。
知識を消化し、数多くの事象が神経回路の中でつながっていくと、物事がより面白く感じるようになって興味が深まって記憶力が増強する

生物では視覚よりも聴覚の方が先に発達してきた。
発達した歴史が長い分、耳の記憶は目の記憶よりも強く心に残る。

物事を理解し連合させると覚えやすくなる。
事象の内容を連合させて豊富にすることを「精緻化」という。
さらにエピソード記憶の方が意味記憶よりも忘れにくい。
いつでも思い出すことができるので単に知識的な連合にするより
自分の経験に結びつけて記憶した方が良い。

エピソード記憶を簡単に作る方法は覚えた知識を友達や家族に説明してみること。
注意点として、エピソード記憶は次第に意味記憶に置き換えられてしまう。
歳をとると意味記憶の割合が多くなっていき、きっかけが十分でないと思い出せない。
ど忘れが激しくなる。
ど忘れしてはいけない知識に関しては、人に時々説明してエピソード記憶として保存する努力をしたほうが良い。

海馬は記憶の一時的に保管場所で、1ヶ月程度が限界。
この1ヶ月の間に復習をすると、一旦忘れていたことも定着しやすい。

忘却曲線を考慮に入れると、科学的に最も能率的な復習スケジュールは
1週間後に一回目、そこから2週間後に2回目、最後にそこから1ヵ月後に3回目
というように復習との間隔を広くしながら2ヶ月かけて行う。

眠っている間には約90分ごとに浅い眠りレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠が繰り返される。
レム睡眠の間に人は夢を見るが、この夢は経験の再生、思い出し
寝ている間に記憶がきちんと整理整頓されてその後の学習を助ける(レミニセンス(追憶)現象)
夢は脳の情報を整え記憶を強化するために必須な過程である。
6時間は寝ること。

記憶には手順も大事。
基礎から少しずつ難易度上げて高度なことを覚える。
大局を理解してから詳細に移る。
記憶はもともと大雑把で曖昧なもの。
大まかに似ているものを区別せずに一緒にまとめてしまうのが記憶の性質。
細かいことが見えてくると、別の細かいことも見えてくる。
つまり、法則性を見つけて理解する能力を記憶する、身につけられる。
脳は使えば使うほど性能が向上する。

覚えたことには相互作用があるので、記憶力の相乗作用は累積(べき乗)の効果がある。
物事の習得において最も大切な心得は努力の継続である。
努力と成果は比例関係ではなくて累乗関数の関係にある。

記憶力増強薬として
カフェインはメカニズムの解説はないが多少効果あり。
ただし脳の興奮、心臓の鼓動促進は注意。

脳への直接投与によって効果のあるK90と言う物質。試薬段階。

アルツハイマー病は海馬と側頭葉の神経細胞が死んでしまって脳が縮む(萎縮)
神経伝達物質のアセチルコリンの量が正常に比べて少なくなる。
風邪薬や下痢止め酔い止めにもアセチルコリン阻害する成分が入っているので受験前などには注意。

脳科学における、記憶の「獲得」「固定」「再生」のうち、「再生」にはまだわからないところが多い。
「思い出せ」という指令、「意識」つまり「心」については、まだ研究の余地が大いにある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2022年2月6日
読了日 : 2022年2月6日
本棚登録日 : 2022年2月6日

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