ごきげんな裏階段 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年10月28日発売)
3.24
  • (12)
  • (44)
  • (89)
  • (23)
  • (2)
本棚登録 : 471
感想 : 60

『サマータイム』を読んだあと、図書館にあったのを借りてみた。佐藤多佳子の初期作品集。アパート「みつばコーポ」の裏階段に、フシギなイキモノがあらわれる話が3つ。

こういうヘンなものと出会うのは子どもだけかというとそうでもなくて、親の目にも見える。そこが新鮮。子どもも大人も、ヘンなイキモノと過ごした時間の後で、ものの見方とか行動とか、ちょっとずつ変わっている。そんな話だった。

第1話は「タマネギねこ」。学とくるみの306号室にはいりこんだノラ猫は、なぜか生タマネギをかじる。両親には飼えないといわれ、学は裏階段にノラを放す。ある日、裏階段にはうじゃうじゃとタマネギが鈴なりで、ノラがせっせとたまねぎをかじっていた。けれど、10分後にお父さんをひっぱっていったときには、タマネギもノラもすっかり消えていた。

そして306号には子猫のからだにタマネギの頭がついたイキモノがあらわれた。猫のようにミューミュー鳴きもするが、このタマネギ猫は人間の言葉もしゃべる。306号にいついた猫は、くさりかけたタマネギのようなたまらぬにおいを発しては、シャンプーされ、そのたびに小さくなっていった。大福ぐらいになり、ビー玉ぐらいになり、シロアリぐらいの大きさになって… オニオンスープにぽちゃんと落ちて、それきり猫の姿は消えてしまう。

次の日、裏階段にいた金茶の子猫は306号に連れ帰られ、ノラが戻ってきたとみんな大喜び。学の母さんは「まあ、なるようになるでしょう」「ノラをないしょで飼ってみましょうよ」と言うのだ。管理組合の理事長・有沢のおばばの目をぬすんで。

第2話の「ラッキー・メロディー」では、笛を2本もった、しゃべる蜘蛛があらわれる。両親の旅行のあいだ、212号室のおじさん宅に居候している一樹は、下手なリコーダーの練習をよそでやれと言われて、裏階段へ。そこで練習していたら、蜘蛛から「へたっぴ」と言われてしまう。蜘蛛は、笛の吹き方を教えてやろうかと言い、実際に自分が笛を吹いてきかせる。

一樹の音楽のアリババ先生は、なんとそのアパートの管理組合の有沢のおばばだった。「ちょっとウチへいらっしゃいよ。笛てあげます」と言われて、一樹はしぶしぶアリババ先生の部屋へ。「練習しないから下手なんじゃなくて、練習しても下手なのかね…」と一樹の練習をみてアリババ先生はつぶやく。

笛吹き蜘蛛に手伝ってもらって、笛のテストはうまくいった。だけど、先生をだましたようで気分がわるい。両親が帰ってきて、一樹は家へ戻り、蜘蛛は裏階段に戻った。いやみな蜘蛛は「またテストに協力してやろうか?」と言うのだが、一樹はリコーダーをせっせと毎日練習している。今度のテストまでにはなんとかあの蜘蛛と同じくらいうまくなってやるのだ。

第3話「モクーのひっこし」では、とうの昔に使われなくなって蓋をしてあったアパートのダストシュートを、ナナとパパがこじあけたら、そこから「煙男」があらわれる。「腹がへった、煙草の煙が食いたい」とさわぐ煙男に、パパは煙草に火をつけて、フカフカと煙をはいてやった。

アパートの住人も次々と禁煙して、どこも魚なんか焼かなくなって、けむりおばけのモクーは腹がへって仕方がない。とうとうママにもみつかって、「あなた、もう、煙草は一本も吸わないでちょうだい! 煙草なんて吸うから、あんなバケモノにつけこまれるのよっ」と言われてしまう。

「モクーは引っ越しさせよう」と、パパは知り合いがやっている煙もくもくのスナックへモクーを連れて行く。そこの強力なエア・クリーナーとして、モクーはばくばくと煙を食い、さらには煙でいろんなもののかたちになってみせる"煙のファンタジー"芸も披露することに。

モクーの芸をみたママはすっかり意見がちがってきて「ケムくさえなかったら、いいお店だわ。あの煙の芸当はおもしろいわ。もう一度見たいわ」とまで言うようになった。けれど、もくもくしなくなったスナックは、どうも気分が出ないと、モクーはお払い箱になって、また310号のナナの家へ戻ってくる。

そのモクーが食べられる煙をさがしてナナのママはくるみのママとしゃべっていて、そして子どもどうしは「すごい話」をお互い聞かせようとして、310号へ向かうところで、物語は終わる。

もしかしたら、その310号室に、有沢のおばば=アリババ先生もあらわれたりするだろうか、モクーを見たら管理組合の理事長としてはどう行動するだろうかと、終わった話のあとをちょっと想像する。

学やくるみの母、そしてナナの母の言動がなんだかおかしい。アリババ先生も正論だけでないところがイイ。『団地ともお』で、建前ふっとばして私はゴキブリ嫌いなのと叫ぶ先生を思わせる。

(2/3了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 図書館で借りた
感想投稿日 : 2013年2月16日
読了日 : 2013年2月3日
本棚登録日 : 2013年2月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする