The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

  • 集英社 (2007年11月26日発売)
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ジョジョの奇妙な冒険・第四部の小説版「The Book-jojo's bizarre adventure 4th another day」を少し前に読みました。
作者は人気作家の乙一です。
今回はその感想とか。

ジョジョはどれも好きなんですが、私は特に第三部と第四部が好きなんですよ。
世間で特に人気なのは第三部と第五部みたいで、その辺はゲーム化されたり話題に上ることが多いんですが、第四部は比較的言及されないんですよね。
主人公の仗助より、康一の方が感情移入しやすかったり、前章の第三部と比べて舞台設定が地味だったり、スピード感よりじっくり読ませる感じなっていたからでしょうか、地味な印象があった気がします。
確かに人気の高い第三部、第五部に比べて、花が無い印象も無いでもないです。
ただ、舞台が日本の新興都市で、日常に発生するズレがリアルに感じられる点など、「奇妙な」という点では第四部が一番強烈な気がしますね。
その日常的なリアルさが、冒険という感じが薄い原因な気もしますが。

小説の出来はすごく良いと思いました。
仗助などおなじみの第四部のキャラが、皆生き生き動いているし、コミックのノベライズによくあるような原作と比較した違和感は特に感じませんでした。
この小説のオリジナルキャラ、蓮見琢馬に関しても舞台の杜王町に実際にいそうな感じで、存在感ありましたよ。
ちなみに杜王町の舞台のS市は、原作者、荒木飛呂彦氏の故郷、仙台市がモチーフです。
今はジョジョファンの聖地となっており、漫画に登場した舞台が仙台にあったりもするんですよ。
自分も以前、暮らしていた時期があったんで、その辺親近感わきます。

で、装丁もいいですねー。
琢馬のスタンド「The Book」をモチーフにしたデザインになってます。
開くとキャラが飛び出してくる仕掛けも気に入りました。

注:以下ややネタバレ含みます。
また、ジョジョを知らない人には不親切な内容かもですがご容赦ください



この小説は一言でいうと琢馬の物語ですね。
本作での敵対者ながら、非常に弱弱しくて繊細、でも何か強いものを秘めている、そういったキャラです。
スタンド使いとして強力なわけでは無いですが、彼は人間的に強いんですよね。
ジョジョ的な強さって、スタンド自体の強さ以上に人間としての強さが大きい作品だと思いますし。
彼のスタンドThe bookは能力は地味で非力ながら、心の強さで仗助や億泰と渡り合うってのがね。
こういう部分が第四部的なキャラって感じがします。
作品を通して、琢馬に感情移入してますし、かといって彼のしたことは許されるべきことではない。
そういった感情もあって、仗助、億泰と琢馬の戦いはハラハラしながら読みました。
でも、この作品の最大の悪って大神だなって思ったり。
第四部のラスボスの吉良みたいな超越した悪ではないんですが、この作品で最も憎むべき存在でしょうね。
その辺も含めて、琢馬の敵対者としての魅力が際立っているのかもですが。
そこを踏まえてのラストは、切ないながらいいですね。
また杜王町で彼らの生活が続いていくんだな、って思える部分も好きです。

それと、全体にジョジョファンにはうれしい仕掛けが多いですね。
四部に出たキャラが(鉄塔の男とか)杜王町の、都市伝説になってたり。
露伴や由花子も物語にそれほど関わらないながら出てきますし、トニオもほんの少しですが出てますね。
ジョジョのキャラはすごく、生きている感が強いんですよね。
こういったチョイ役での出演でも、物語の外で生きてるんだなーって思えます。
それだけ生きたキャラを荒木先生が描いてきたってことなんでしょうね。
よくジョジョは人間賛歌と表現されますが、それも納得です。

作者の乙一氏は、ジョジョの大ファンだそうで、四部の小説をボツ原稿含めて5年で2000枚書いたそうです。
本作はさすがの出来だと思います。
好きでなくては、ここまで書けないと思う。
勿論好きなだけでも書けないと思いますが。

自分が昔読んだ、文章入門的な作品で、20代で成功した作家はいないと書かれていたような時代に、乙一氏は頭角を現していったんですよね。
自分も、そういった道に進みたいって考えていたこともあり、この作家の動向は嫌でも目に付きました。
平野、綿矢、金原氏など、その後も若い年齢で文学賞を手にして話題になった作家はいましたが、乙一ほど気にはなりませんでした。
多分何故かと考えると、乙一の作品が自分の嗜好の方向性に近いものだったからじゃないかと思います。
ライトと文学の境界的な立ち位置だとか、ホラー的なアプローチだとか。
若いながら文学賞を取るって人は実は結構いるんですよ。
でも、それから安定して評価を得ていく作家というのは少ないんです。
乙一はそれを行って、かつ自分の好きなジョジョでこういったクオリティの作品を書いてしまう。
正直、この小説は大変楽しんだんですが、嫉妬しましたよ。
自分がいかに何も成せてこなかったことや、今の自分への自責とか、ゴチャゴチャになった感じになりました。
自分が仮にその道を目指して、果たして成功出来たかわかりませんが、やはり覚悟が足りなかった。
今は生きていくのに精一杯で、とても夢とかそういうものを持ち続けられる気がしません。

小説はすごく楽しめました。
そのことも含め、読後の感情は忘れることが出来ないものになるでしょう。
そういった部分があって、ブログにこの記事をUPするのをずっとためらってました。
結構前から書き進めていて、全く書き終わらないので、大幅に削ってUPすることに決めました。
今、自分のブログを感情を吐露する場にはしたくないと思ったので。
最後、作品と全く関係無くなってしまい申し訳ないです。


2008年3月10日記

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感想投稿日 : 2010年6月4日
本棚登録日 : 2007年11月24日

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