日本美術応援団 (ちくま文庫)

  • 筑摩書房 (2004年3月12日発売)
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本棚登録 : 290
感想 : 33
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朝起きたら日本美術について知りたくなっていた。
ゆうべ子規の随筆を読み返したせいだと思う。
それで借りてきたのが、この本。

日本美術に関してはほとんど知識がないので、視点が限定されてしまうのではないかと危惧しつつ読んでみた。というのも、赤瀬川原平の本は実家にあったのを読んだことがあり、かなり断定的に物を言う人だなと思った覚えがあるからだ。確かルノワールとアングルをこき下ろしていたような。私がルノワールを嫌いな理由がそのまま書いてあって笑ったような。彼と好みが一致する読者は快哉を叫ぶだろうけど、そうでなければきっと立腹するだろうなという印象を持った。

本書は赤瀬川原平と山下裕二ふたりの対談形式で、縄文土器から二十世紀の洋画家まで幅広く日本美術を応援しちゃおうという企画。本物を見に行くのだ。楽しそう。
印象に残ったのは、琳派の俵屋宗達と尾形光琳を対比的に語る中で「乱暴力」という造語を導入するところ。宗達は絵描き、光琳はデザイナー。宗達のほうが「乱暴力」がある、という話。どちらがいいというわけではなく。
私が絵を好きになる理由の一番は美しさだけど、それと別に無視できない要素として「やっていやがる」と感じるかどうかがある。例えば昨年春のボストン美術館展で曾我蕭白を見たとき、そこまで美しいと思わないのにどこか気に入った。とにかく、やりやがったー!と感じて、絵を見ながら思わずにやりとした。彼らの言う「乱暴力」はこの感覚に相通じるものがあると思う。(ちなみに蕭白は「乱暴力」を意図的に押し出している画家として後の章で紹介される。)

気に入ったものをいくつかメモ。
一番は伊藤若冲の動植綵絵。特に貝甲図と池辺群虫図。「赤瀬川:観察的な絵って面白いんですよね。僕は細密画って割と好きなんです。細密でしかも博物画的なやつ。」私は子供の頃から虫が好きで図鑑が好きなので、どんぴしゃり。この観察眼に惚れる。 特筆すべきは池辺群虫図のおたまじゃくし。「最初は何が描いてあるんだか全然わからないんですよねえ。点がぱあっと散らばってて。でよく見ると、うわっ、これ全部オタマジャクシだって驚く。」 初めて見たとき自分もまさにこの通りの反応をしたので笑ってしまった。動植綵絵は一つ一つの物の配置が完璧でこの他の置き方はありえないと感じさせるし、デザイン的というのはほんとにそうだなと思う。ぜひ実物を見たいが、宮内庁が所有していてなかなか公開されないのだそうだ。
円空の善財童子。珍しいことに側方から撮った写真が載っていた。前から見るとただの仏像だなって感じなんだけど、横からだと潔く迷いのない線がよく見えてすごく格好良い。「ブランクーシとジャコメッティのいいとこどり」と書いてあって、そういう表現をするのかと感心した。彫刻は馴染みが薄いと思っていたけど、横から見るというのは面白い。
青木繁の自画像。『海の幸』しか知らなかったんだけど、青木繁は二十八で亡くなってて、あれは二十二で描いた絵だそうだ。すごい。この自画像は、朱色の線にびっくりした。青木自身の体がひょんひょん光る朱色の線を帯びているのだ。どうしてこういう線を入れようと思ったのか分からないけど、完成したのを見ると断然あった方がいいなと思う。不思議だ。

楽しかった!
でっかい画集を探しに行こう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人文科学
感想投稿日 : 2013年6月2日
読了日 : 2013年5月30日
本棚登録日 : 2013年5月26日

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