津軽 (新潮文庫)

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感想 : 276
5

仕事で青森に行く機会がそれなりにあり、津軽地方のことを少し知ろうかと思い読んだ一作。
津軽地方・五所川原の金木町出身の太宰治が、改めて津軽の山深い地域を訪れ、各地で人に会い、景色を眺め、酒を飲み、最後に自分を育てた”タケ”という家政婦に会いに行く。旅行記というかエッセイというか。
1944年に訪問したようで、ところどころ戦時中と思われる表現が出てきますが逆にいうと、それ以外は戦時中と気づかないくらい。

自らの本が誉められないことを嘆いたり、酔っ払って珍妙な接待をする津軽人に共感し憐れんだり、津軽の人を寄せ付けない自然に哀愁を覚えたり。
太宰は本当に日本語表現がおもしろすぎて、読んでていちいちおかしくなる。パワーワードが豊富。
「不面目な種族」といいながら酒飲みの性で、いちいち行く先で酒の在処を心配し、宿や訪問先にあるだけの酒を飲み、リュックにビールを詰めてハイキングに向かう姿に本当にダメ人間に思えるが、いわゆる人垂らしだったんだろうか。

青森市から北西の津軽半島に一度向かったのち、南の平野部に向かい、最後は権現崎の近くの集落・小泊でタケと再会を果たす、という道を辿ったようです。
津軽地方は、現代でも航空写真を眺めると実に山深く、人が住むエリアは本当に限られていることがわかります。
決して住むに楽な場所ではないのだろう、と思います。

太宰自身の個人的なノスタルジーを感じるだけでなく、自分とゆかりのある地を巧みに描写できるのは、さすが文豪ですね。
大きなドラマがあるわけではないのですが、退屈しませんでした。
現在の青森県や津軽地方の成り立ちというか近現代史的な部分を知る上でも参考になりました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2022年10月24日
読了日 : 2022年10月12日
本棚登録日 : 2022年10月12日

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