ビニール傘

著者 :
  • 新潮社 (2017年1月31日発売)
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感想 : 98

岸政彦さんの作品の空気感がすごく好き。

カギカッコもなしにつらつらと
関西弁訛りの会話が良くて。

特に特別という訳でもなく、
あの時確かにそこにあって、
なんのとりとめのない時間だったけど、
今思えば、今ここのどこにもない、
かけがえのない時間を過ごしていたんだなって気づく、そんな場所から眺めているような。

淀川が見たいなって思う。眺めていたいなって。
できれば本当は大切だった人と、二人で。
ビニール傘をさして、とりとめのない話をぽつりぽつりと、雨に並んで話しながら。


なぁ「傘」って漢字あるやろ?
あれって傘になんで人が4人も入ってるん?
4人もようはいらんやろ?

あれ人ちゃうやろ。
多分傘の骨組みのとこやで。

え、そうなん?……それやったらなんかつまらん。

つまらんもなんも。4人も入られへんゆうてたやん。

せやけど、そんぐらい包んであげようおもてるよって心持ちがええやん。

ようわからん。2人でも入りきらんと濡れとるし。

そう言って肩を包むように傘の軸がこっちに傾く。
みたいな。
あぁ思わず妄想が暴走して止まらない。


もう1作『背中の月』もすごく良かった。
侘しいというか、切ないというか。
悲しみが張り付いているようなページたち。

妻の不在がよく表れていて。
妻が居てて、ちゃんといてて、今はもういない。
それが明らかに表現されている、穴。

暗い穴は時にバックスクリーンになって、
そこに映像が映し出さられて。

本当になんのとりとめのないようなシーンがぼわ〜っと浮かんできて、
あぁあの時、なんて言ったのかも思い出せないけれど、
その記憶はふとした瞬間に、穴のスクリーンに映し出されて、くり返されていく。無声映画みたいに。

〝忘れられない〟って、そういうことなんじゃないかなって。そんな風に思った。

どちらの作品もすごく好きです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月21日
読了日 : 2021年7月6日
本棚登録日 : 2021年7月6日

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