「アラブの春」の正体 欧米とメディアに踊らされた民主化革命 (角川oneテーマ21)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年10月10日発売)
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感想 : 55

2012年刊。
著者はアラビア語に堪能なフリー・ジャーナリスト。ついでに著名人の娘でもある。

 2011年より(前史は10年)中東を席巻した「アラブの春」。しかし、その内実と性格とは国毎で大きく違い、また報道で広く開陳されることなく潰されたものもある。
 本書は①チュニジア、②エジプト、③リビア、④サウジアラビア他アラビア半島諸国、⑤シリアとに分けて、2010~12年までの各国政治状況を、欧米やアラブでの報道の問題点に切り込みつつ解説する。

 結論的には、思った以上に良い出来栄えの書と言える(ただしシリアを除く)。
 それは、
ⅰ) 革命前の各国政権の功罪両面を歴史に遡り広く分析する点、
ⅱ) 「アラブの春」の内実を、各国毎の政治・宗教・社会の状況を踏まえ区分して解説する点、
ⅲ) イスラム同胞団の国毎での多義性・多様性を明快にした点、
ⅳ) BBCなど欧米報道機関に加え、「アルジャジーラ」の問題点を、彼らへのスポンサーの解読と、その報道内容の不自然さから読解く点、
ⅴ) 報道にもドキュメンタリーにも出ないサウジアラビアに切り込む点、
ⅵ) イスラム保守派政権が、革命後各国に生まれた事情を、選挙と宗教の地域的拠点の観点で論じる点にある。

 逆に、かような功罪両面を論じるのが本書の買いであり、そういう意味で上記ⅰ)が甘く、アサド政権の罪を明示しないシリア論は全然ダメということになる。

 なお、興味深いネタとして、まずサウジアラビアにおけるタブーに関し、
⑴ 現在における奴隷制度の残存、
⑵ 国籍を持てない=教育・医療の支援といった社会保障制度を受けられない遊牧民「ビトゥーン」の存在
がある。

 また、リビアのカダフィのアフリカ統一通貨構想の発表後に合わせたような政権転覆劇への?。欧米の思惑如何?。
 ところで、クルド人の支配地域は⑴イラクでは油田多し。⑵シリアでは肥沃な農業適地。⑶トルコでは水資源豊富という事実は深堀すべき地誌情報かもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年7月1日
読了日 : 2017年2月17日
本棚登録日 : 2017年7月1日

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