黒革の手帖(上) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1983年1月27日発売)
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本棚登録 : 2234
感想 : 201

◆夜の世界でのし上がるために必要なのは金、金、金。そんな狭い世界を、女独り泳がんと悪辣さを発揮する、昭和ピカレスクロマン小説の怪作◆

 漫画「女帝」の如く、「バア」のママが、男の秘密・弱みを利用し、その世界でのし上っていくピカレスク・ロマン小説。

 背景には、例えば、今は昔となってしまったと言えそうな、借名口座を利用した所得隠し・脱税。
 産科医師による人工中絶に保険適用がなく、つまり自由診療で、多額の現金授受がなされていたという実情が踏まえられている、
 あるいは、勤めの看護婦が医師の二号である点など、社会事象が美味い胡椒のように味付けられ、満足満足である。

 もとより、小説としては、出来過ぎの部分が多いが(最たるものが、割烹「梅村」の女中島崎すみ江がホステス面接に来る件)、それを無視すればなかなか楽しい。著者が主人公を通して語る、社会に対する斜に構えた態度、捻た視座が、面白さの要因だろう。

 ところで、初出年は1980年だが、借名口座が厳禁されるようになったのは、現代の税逃れの手法が借名口座を利用したものではなくなったから、というのは穿ち過ぎか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2018年5月5日
読了日 : 2018年5月5日
本棚登録日 : 2018年5月5日

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