汽車旅12カ月 (新潮文庫 み 10-1)

著者 :
  • 新潮社 (1982年4月1日発売)
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感想 : 6

1982年(書下しを除き初出78~79年)刊。鉄道歳時記紀行文のようだが、むしろ鉄道・旅行への想いを綴ったエッセイ。「ローカル鈍行」乗車に春を感じる理由が、車窓風景でなく、D車両の車端にしかない暖房設備に足を乗せた結果、自分の水虫が疼きだすからという件。国鉄貨車専用線に乗り入れていた鹿島臨港鉄道に乗らないと国鉄全線完乗が破綻する、と一頻り悩む著者。東京から四国へ行くのに、新幹線→新大阪発寝台特急「彗星」→別府から船で八幡浜へ渡るルートを採る著者。山口線のSL復活に異議を唱えるべく別候補線を真剣に探す著者。
硬券の使用済切符を呉れそうな駅員にホイホイ付いて行ってしまう著者。故人たる著者には誠に申し訳ないのだが、とても可愛い。全くお茶目な愛すべき存在にクスクス笑えてしまう。しかるに、国鉄全線完乗後、虚脱状態になった著者が「乗るべき線路がないと萎れてしょんぼりしていたのは…百余年に及ぶ鉄道史や四季折々七色に装いを変える国土を恐れぬ不遜な感懐であった」と述懐、「移動のための手段である限り交通機関は『文明』でしかないが、手段を目的に置換することで汽車は『文化』へと昇華する」とも語る。ホントカッコいいんだから。
上記の話題、国鉄や全線完乗が一大ブームとなった時期、SL廃止(これは流石に私も記憶にない)に涙流した時代を知らないと、全く判らないかもしれないなあと思いながら、でも書かずにはいられなかった、PS.新旧マルスを見極めて指定券取りに並ぶ列を決めるのではなく、前に並んでいる人がおばちゃんかそうでないかで決めた方が良い、との著者の教えには爆笑した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2017年1月23日
読了日 : 2017年1月23日
本棚登録日 : 2017年1月23日

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