朱色の研究 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2000年8月25日発売)
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本棚登録 : 3075
感想 : 256
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おそらく、今までに読んだミステリのなかで一番好きな作品だと思う。なにが好きかといえば、トリックでも全体のストーリーでもない。私の心をとらえたのはひとえに、犯人の動機だ。なぜ、その犯人が最初の殺人に至ったのかというその動機に尽きる。彼は、彼女に愛されていた。そして、彼女は彼を必ず手に入れるといった。彼はそれを恐怖した。彼にはほかに好きな女性がいた。それでも、そう断言した彼女に惹かれていく自分がいた。それに彼は畏怖を覚えた。そして、彼は彼女を殺した。この動機こそ、この作品を愛する理由だ。また、途中、日想観を思い起こさせる補陀落渡海などの夕焼け信仰への解釈が差しはさまれ、それが犯人を殺人へと駆り立てた状況を演出しているという部分も興味深かった。全編を通し夕焼け、夕焼け色がキーワードとなっている。すべてを朱く染める夕焼けはたしかに畏怖を煽り、神秘を感じさせる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2011年11月20日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年11月20日

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コメント 1件

jardin de luneさんのコメント
2012/06/12

私もこの本は大好きです。どれくらい好きかと言うと、持っている本の中で一番ぼろぼろです。どうしよう新しく買おうか、とおもいつつもそのぼろぼろさ加減が愛おしくてしかたありません。
有栖川有栖の、ミステリとしては本格なのに、さらに情景がとても丁寧に描かれるところが大好きです。

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