貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える

  • みすず書房 (2012年4月3日発売)
4.09
  • (100)
  • (108)
  • (48)
  • (13)
  • (1)
本棚登録 : 1931
感想 : 111
5

タイトルの通り経済学についての本だが、人間の行動心理について書かれている部分も多くあり、そこが私にとってはとても興味深かった。

特に「時間不整合性」や「豊かな国に住む者は眼に見えないあと押しに囲まれて生活している」という二つの事実は、今後もずっと覚えておきたいと思った。
まず一つ目の時間不整合性は単純に言うと「今チョコレートを食べるのを我慢できないのに、来年にはダイエットに成功しているはずと思っている」ようなことで、これはとても身に覚えがある!いつも将来に過大な目標を立ててしまい、一方で現実は全く努力ができていない。いつもそう。
それは私がとんでもなく怠け者のせいなのかと思っていたが、人間すべてに共通する傾向であると分かり、安心した。「そういうもの」なのだとわかれば、それに即した対策が立てやすい。
二つ目のことについては、私は先進国に生まれた幸運への実感が足りなかったと反省した。蛇口をひねれば水が出てきて、娘の予防接種もすべてお膳立てされていて、医療機関への信頼も高い。この恵まれた環境が私の履いている下駄であることに気づくことができた。
今までは正直に思えば「貧乏人は何かしらの原因(低栄養、低IQ、教養の低さなど)で合理的な判断ができないのだ」と思っていた。しかし本書を読んで、それが事実ではないことが分かった。
そもそも貧乏人はそれぞれ「そのとき・その環境において合理的な判断」をしているし、私が自分で言う「合理的な判断」ができるのは、私が大きな下駄を履いているからなのだ。優れた人間であるからではない。もしこの本の中にあるような貧困の中にいたら、私も結局「合理的でないように見える」判断をし、行動しているのだろう。
このことは、「その人はいまの精一杯をやっている」という知見を与えてくれる。一見不可解な言動でも、その人の選択肢の中ではベストかもしれない、ということ。これは日常のいたるところで役に立つ考えだと思う。「その人は精一杯やっている」と思うことで、相手を慮ることができるし、「じゃあなぜそれが精一杯なのか?」と相手の背景に関心を持つ源流にもなる。


ほかにも様々な人間の心理が確かな実験データを用いながら説明されており、経済学に縁遠くても最後まで興味をもって読むことができた。
一つの包括的で普遍的な答えはないということ。
塊のように思えるものも実態は多様な問題の束であり、一つ一つ観察して調べ、内実を把握し、それに適した解決法を充てていくのが必要だということ。
本書を通じて主張されていることで、著者は最後に「静かな革命」という表現をしているが、それがとても大切なことで、真実だなと思った。一つ一つの取り組みは小さいものだし、その効果も地味に見えるかもしれないが、確かに意味があり、前進している。オールオアナッシングの誘惑に打ち勝たねばならない。
自分の人生に必要なのも、この「静かな革命」ではないのか?と感じた。

ただ、最後の第十章は読むのに苦労したし、たぶん理解できていない。自分の知識の不足を感じた。

.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2020年7月20日
読了日 : 2020年7月19日
本棚登録日 : 2020年7月4日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする