川のほとりで羽化するぼくら

著者 :
  • KADOKAWA (2021年8月30日発売)
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本棚登録 : 567
感想 : 76
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全4編の短編集で、困難な状況にいながら、どう前に進もうとするのかが描かれています。現実的な作品もあれば、近未来や大河ファンタジーのような世界観もあったりと多彩でした。特に現実とは違った世界観をもった作品は、独特でした。

個人的には、最初の「わたれない」が印象的でした。

主人公・暁彦は、東京の事業所が閉鎖されるため、九州の本社へ異動を打診されたが、妻の仕事や育児の関係で退職することにした。仕事が決まるまで、しばらくは専業主夫として育児に専念していたが、子供の世話は幾多の苦労ばかり。そんな時、似ている境遇を経験しているブログを発見した。

育児に奔走して大変な描写がありながらも、明るいポップな雰囲気で描かれていて良かった印象でした。
なかなか他人に相談できない状況の中で、どう自分が対応していくのか。何が正解で、何がだめなのか。

育児や他人からの表面的な印象に苦悩しながらも、自分ならではの答え・「らしさ」が表現されていて、自分にも勇気をもらったような感じがありました。

他にも昭和ならではの夫婦を描いた「ひかるほし」が印象的でした。元警察官の夫は、ザ・亭主関白。夫に苦悩する妻が
、周りの女性に憧れを抱きながらも、自分は無理かなと思ってしまう。
夫には愛想をつかしながらも、人生まだまだという諦めない心をもっている印象が伝わってきました。

全編、すぐに心が切り替わるわけではなく、徐々に時間をかけて、心が変化していきます。
題名の「川のほとりで羽化するぼくら」、まさにサナギから成虫になるかのように自分の決断によって、徐々に旅立つ姿が垣間見られました。

彩瀬さんの描く描写が、時に明るく、時に艶かしくなど様々な雰囲気を演出しているので、ある意味「化ける」作家さんだなと思いました。

大事な「一歩」を押してくれるので、自分もなんだか押されたように感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2021年9月
感想投稿日 : 2021年9月9日
読了日 : 2021年9月8日
本棚登録日 : 2021年9月8日

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