カインは言わなかった

著者 :
  • 文藝春秋 (2019年8月28日発売)
3.27
  • (23)
  • (58)
  • (109)
  • (26)
  • (9)
本棚登録 : 798
感想 : 108
3

前から読んでみたかったので、購入。

今回は、バレエ界の話。バレエ公演に向けて、様々な人たちが翻弄されていきます。
読んでいて、頭に浮かんだのは、映画「ブラックスワン」でした。主人公のバレリーナが、主役に抜擢されるが、そのプレッシャーや役にのめり込むうちに精神が崩壊されていく話です。
この本も登場人物の精神が崩壊されていく描写があります。
緊張の糸がピンと張り詰めるかのように読み手側もそれが伝わり、グイグイと物語の世界にひきこまれました。
作中、段々と「誰かが誰かを殺したい」という憎悪の塊を持つようになる人が何人か登場します。それまでに至る過程が色んな人物の視点を通じて、わかってきます。
そして、最後の部分で、本当の真相がわかった瞬間、ガラリと雰囲気が変わりました。ものの視点が変わることで、それまでのイメージが変わることに面白さを感じました。
精神的に追い詰められると、人間はどんな行動するのか。様々な人が、追い詰めた先の末路が描かれていて、人間としての怖さが如実に表れていました。
バレエ界ではありませんが、精神的に追い詰めるという意味では、演劇界では蜷川幸雄さん、映画界では中島哲也監督が有名かと思います。明確に指導するのではないので、答えがわからないまま、出口の見えない闇へと進みます。
経験したことがある人にしかわからない心情が文章に表れていて、未知の領域の世界に踏み込んでいる雰囲気を醸し出していました。
冒頭と最後には、ある評論家の公演に対するレビューが書かれています。最後のレビューでは一筋の光が感じ取れましたし、読み終わった後にもう一度冒頭を読むと、最初に読んだ雰囲気とは違った味わい方がありました。
一つのバレエ公演が、こうも様々な人間に影響を与えるとは。改めて奥深さを味わいました。
言葉のキャッチボールは、重要であると真摯に感じました。

演出家の視点も個人的には、入れてほしかったです。演出家の内面の部分も見ることで、この場面はどう思っていたのか気になります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2020年1月
感想投稿日 : 2020年1月27日
読了日 : 2020年1月27日
本棚登録日 : 2020年1月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする