未来をはじめる: 「人と一緒にいること」の政治学

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  • 東京大学出版会 (2018年9月27日発売)
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本書の元になったのは、東京都豊島区にある豊島岡女子学園中・高において行われた全5回の講義。
豊島岡女子学園といえば、近年桜蔭に次ぐ東大進学者数を誇り、超進学私立女子校として名を馳せている。
賢いお嬢様方に向けての講義は、賢くないけれどそれなりの年月を生きてきたオバさんにも分かりやすく、政治というモノの見方を変えてくれた。

遠い昔、社会科の授業で歴史や地理の分野は好きだったが、公民だけはピンとこず、サンケンブンリツ…権力が分けられていることすらイメージできなかった。
それは、歴史や地理は自分と地続きであるが、選挙権もない保護下に置かれた子どもには、公民が自分とつながっているモノであるという認識がなかった故だろうか。
このような考え方があれば、小中学生にも公民に興味を持ってもらえるのではないだろうか。

この講義の中で、「政治とは人といることだ」と宇野さんは伝えている。それぞれ意見も個性も違う人々が、どのようにしたら共に幸せに暮らすことができるのか…を考えることで、いわゆる政治家だけに委ねられてられているものではない、と述べている。
そして、時代の急速な流れと共に、多数決民主主義の限界がきていることも宇野さんは伝えている。
多数決に変わる制度にはどんな形があるか、という話はとても興味深かった。

最後に5回の講義を振り返るまとめの章もあり、巻末には生徒の代表(中3〜高2)との座談会も収録されている。
豊島岡女子の生徒さん達は流石!な鋭い洞察力と表現力をもっている。どうか、社会に出てもこの鋭敏さが奪われることのないように願う。が、それは杞憂に過ぎず、これからの世代はガラスの天井を打ち砕いていくのかもしれない。

以下は内容盛り沢山なので、忘れないための読書メモ。

●ルソー、カント、ヘーゲル三人の政治哲学者の思想の違い。

●伊藤穰一…アメリカで活躍するオピニオンリーダー
「9プリンシプルズー加速する未来で勝ち残るために」
ジェフ・ハウと共著/早川書房
これからは「強さ」ではなく「しなやかさ」の時代。国は軍事力や経済力を強化し、個人も能力や資格を身につ強くならねばならないと言われてきたが、いくら力をつけても人間は必ず失敗する生き物。
これからは強さよりも、失敗から立ち直り、学び、成長していくレジリエンス(回復力)が重要。
また、「押す」のではなく、「引く」時代。全てもち抱える者から指示を押し付ける時代は過去の物となり、外の「弱いつながり」のネットワークから必要に応じて引き出してくる。

●多数決民主主義に限界がきている…そもそも民主主義と多数決には矛盾がある。
かのウィンストン・チャーチルは、「民主主義は最悪の政治だ、ただしこれまで存在した民主主義以外のすべての政治体制を除けば」と述べ、民主主義をけっして完璧であると思っていなかった。
また「頭をかち割る代わりに、頭数を数える制度」とも言い、「人の頭数を数えて」多数派の意見を採用するのがいいとは限らないけれど、殺し合いになって「人の頭をかち割る」のよりはマシだろうと民主主義を評価した。

●ボルダ・ルールという決め方
「多数決を疑うー社会的選択理論とは何か」岩波新書
坂井豊貴/著
多数決はたくさんある「決め方」の一つに過ぎず、それも最善のものではない。その理由は多数決という仕組みが、候補が三人以上いるときに変な結果を導いてしまう点にある。
アメリカ大統領選の例。
三人の候補がいる場合、一位に3点、二位に2点、三位に1点という点数をつけるのが、ボルダ・ルール。数学者ジャン=シャルル・ド・ボルダの名前にちなんでつけられた。
候補者X、Y、Zの例題。
2020.1.25

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 3類社会学
感想投稿日 : 2020年1月25日
読了日 : 2020年1月25日
本棚登録日 : 2020年1月18日

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