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癌で余命宣告をされた後の日常を書いたエッセイ「死ぬ気まんまん」。主治医との対談。身体の痛みに耐えかねて入院したホスピスの体験を書いたエッセイ「知らなかった」。関川夏央が寄せた文章「旅先の人ー佐野洋子の思い出」の4編が収められている。
痛みこそ恐れたが、死を突きつけられても恬淡としているように見える著者であったが、無念な気持ちは抱えていたようではある。関川夏央が引用している「神も仏もありませぬ」の中に、住んでいた北軽井沢の山の春を、佐野さんは次のように書いている。
【引用】
ここの春はいっぺんにやってくる。山が笑いをこらえている様に少しづつふくらんで来て、茶色かった山が、うす紅がかった灰色になり、真っ白な部分と、ピンクのところとが、山一面にばらまいた様に現れる。こぶしと桜がいっぺんに咲くのだ。(中略)
私が死んでも、もやっている様な春の山はそのままむくむくと笑い続け、こぶしも桜も咲き続けると思うと無念である。
【引用終わり】
自分が死んでも、北軽井沢の山は春を迎えて綺麗に装うであろうことに無念さを感じるということ。
同じような気持ちを持ったことのある人は多いと思うが、それは、少なくとも私の場合には、自分がいなくても世の中はいつも通りなのだろうな、という無情感、無力感であり、無念さではない。このあたりに佐野さんの佐野さんたる所以があるような気もする。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年10月29日
- 読了日 : 2020年10月29日
- 本棚登録日 : 2020年10月28日
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