10年間の愛人関係にピリオドを打った時、彼が最後の贈り物に選んだのは自身の左腕だった―――。
こんな衝撃的な展開で始まる本作は、奇想の色合いが濃いファンタジックな短編集です。
自身の体の一部をパーツのごとく外すことができる表題作「くちなし」を始め、カマキリのように女が夫を食べてしまう「けだものたち」、ウミガメをモチーフにしたと思われる海獣変身譚の「山の同窓会」など、多くの作品でちょっと不思議な世界を体験することができます。
個人的に一番好きなのは、体内に侵入した虫が人間の恋愛感情を操る世界を描いた「花虫」ですね。
私自身、こういう作品はこれまであまり読んでこなかったのですが、結構楽しめました。
例えば川上弘美さんもかつて蛇が変身する話を書いていましたが、あれよりはエンタメ寄りで分かりやすいです。
最近であれば三崎亜紀さんあたりが描きそうな世界ですかね。
このようなファンタジックな話で纏めた一冊なのかと思いきや、「愛のスカート」「茄子とゴーヤ」は普通のリアリズム小説でした。
これは本作があくまで「愛」について描いた作品集であり、ファンタジー的な設定は手段であって目的ではないのだという作者の意思表示と読み取りましたが、私にはバランスが悪いように思えました。
この2本の出来が悪いということではないのですが、やっぱり全部奇想小説で揃えたほうが良かったのではないかと。
とはいえ、予想以上に面白かったので、彩瀬さんの他の作品も読んでみたいと思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
彩瀬まる
- 感想投稿日 : 2018年1月8日
- 読了日 : 2018年1月8日
- 本棚登録日 : 2018年1月8日
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