限界芸術論 (ちくま学芸文庫 ツ 4-1)

著者 :
  • 筑摩書房 (1999年11月1日発売)
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本書の表題となっている評論では、われわれの生活や仕事の中から生まれてくる作業歌や折り紙などの様式を取り上げている。筆者はこれらを「限界芸術」と呼び、その特徴やわれわれの人生や社会における意味を考察している。

これらの芸術は、純粋芸術や大衆芸術とは異なり、マスの需要者によって消費されることを想定していない。あくまで一つの生活圏やコミュニティの中で形作られ、その環境を構成する人々の中によって消費される芸術である。

しかしながら、これらの芸術は、われわれの生活の中の様々な活動の「倍音」として形作られ、それらを楽しくし、単調な生活を豊かにしてくれる。

さらにそれだけでなく、生活の中の一つひとつの行いが限界芸術という形で高められることにより、人生そのものが芸術になる。その象徴的な実践が、宮沢賢治の生涯であったという。

われわれが何気なく受け継ぎ、生活の中に埋め込んできたものに、筆者がこのような豊かな可能性を見出したというところに、非常に感銘を受けた。

その他に、カルタ、作文(綴り方)、新聞小説、落語、まげもの映画などのそれぞれの中に、社会に対する向き合い方や自由で豊かな言論の芽、他社に対する優しい眼差しなどを見出す評論が含まれており、一つひとつが新しいものの見方を教えてくれるような内容だった。

戦後の昭和の時代をただ懐古の情で思い返すだけでなく、その時代の人びとの底流に息づいていたこれらの生き方や考え方こそ、忘れ去ってはいけないものなのではないかと感じた。

筆者がそれらを書き残してくれたことで、われわれが今の文化や社会を考える際にも示唆を得られることが多いと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年9月3日
読了日 : 2020年8月21日
本棚登録日 : 2020年3月23日

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