人の砂漠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1980年12月29日発売)
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本棚登録 : 952
感想 : 73
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先日、『ある行旅死亡者の物語』を読み終わって思い出した。
そういえば、沢木さんのルポに似たような作品があったな、と。

本棚を探しまくって発掘したのが本書である。冒頭に収められ
ているルポのタイトルは「おばあさんが死んだ」だ。

おばあさんの死は全国紙に掲載された。栄養失調と老衰で
貸家で亡くなったおばあさんだが、その家にはもう一体、
ミイラ化した遺体があった。

遺体はおばあさんの実の兄だった。何故、ふたりは孤独に
亡くなったのか。おばあさんの過去を遡る過程をまとめたルポだ。

40年以上前のルポだが、現在でもひっそりと孤独死する人たちにも
それぞれの軌跡があるんだよな、と改めて考えさせられた。

そして、本書に収録されている「棄てられた女たちのユートピア」
で取り上げられている「かにた婦人の村」は、発足当初は一般社会で
の生活が困難な元売春婦たちの為の施設であったが、現在は性被害
や暴力被害に遭った女性たちの安住の地になっている。

「屑の世界」は実際に建場で働いた著者が見聞きしたルポである。
この作品を読むと。名作『チリ交列伝』を再読したくなるとの
誘惑に駆られる。やべぇ、読書の蟻地獄だぜぃ。

最終章「鏡の調書」も興味深い。自分を大金持ちだと思わせて
詐欺を働いた老女の話なのだが、こういう人はネットにもいる
よね。「自分は銀座に店を持っている」とか言っちゃって、
札束を積んだ拾い画を「証拠だ」と言い張る人。嘘はばれます。

収録されている8作品はどれも昭和の時代に書かれたものだ。
時代背景が違うから、その時代を知らない世代には違和感が
あるだろうが、私はすんなり再読できた。ま、ばあさんで
あるということだな。

それはともかく、やっぱり沢木さんの視線は温かいんだな。
切なくて、それでもじんわりと胸の奥に浸みる作品ばかりだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月20日
読了日 : 2023年3月20日
本棚登録日 : 2023年3月20日

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