戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

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  • 朝日出版社 (2016年8月9日発売)
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感想 : 76

 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』同様、高校生への講義を元にしているので読みやすい。本書では国際連盟脱退、三国同盟締結、太平洋戦争開戦直前の日米交渉頓挫の三点に絞り、なぜその時々の日本がそのような選択をしたのかという過程を描いている。
 随所で筆者は、当時の国民の教育水準が不十分であり、また支配層からの正しい情報共有がなされていなかったため、国民が好戦的に思いこまされていることを天皇自身の言葉も引用して批判的に述べている。そのとおりだと思うし、特に高校生に伝える言葉としては正しいと考える。ただ、戦前日本又は現代世界のポピュリズムに関する本を何冊か読んだ後だからか、それだけなのかと一抹の疑問も感じる。では当時より教育水準が高く報道の自由も民主主義も進んだ現代では、国民も国家も合理的な判断ができるのだろうか。
 本書で扱う三点の一点目。リットン報告書が割と日本にも配慮した内容だったし、松岡全権は本国の訓令に従った自分の主張に説得力がないことを自覚して本国に妥協を呼び掛けていたのに、内田外相は中国の対日妥協と直接二国間交渉に期待をかけていたため松岡の主張を突っぱねたとのこと。
 二点目。三国同盟には、「大東亜共栄圏」(これ自体は後付けのスローガンだったが)が日本の勢力圏であることを認めさせ、ドイツのこの地域への進出を牽制する必要があったこと。またドイツと中国(蒋介石)の連携という現実を背景に、ドイツを仲介した日中講和もあり得たが、日本が汪兆銘政権を承認したことで崩れたこと。
 三点目。南部仏印進駐で米の対日全面禁輸が行われたが、その後も日米交渉自体は続いており、双方とも首脳会談を含め戦争回避の可能性を真剣に考えてはいたこと。しかし交渉の期限切れを迎えてしまったこと。悪く言われがちな野村吉三郎大使に対し、筆者は好評価を与えている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2018年3月4日
読了日 : 2018年3月4日
本棚登録日 : 2018年3月4日

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