自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心

著者 :
  • エスコアール (2007年2月28日発売)
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自閉症スペクトラムの人が何を考え、何を感じているかの一端がわかる画期的な本。この本が、業界に与えた影響は大きいのではないだろうか。特に、発達障害を持つ児童に関わる人や支援者は絶対に読んでおくべきと思う。

本書では、自閉症スペクトラムで見られる特徴についての質問に、中学生である筆者が一つ一つ答えていく形式を取っている。答えも簡潔に、平易な文章で短く書かれているので非常に読みやすく、自閉症スペクトラムについての知識がない人でも、とっつきやすいと思われる。

しかし、とっつきやすい=単純に書かれているというわけではない。傍から見ると解りにくい思考や感覚について、痒いところに手が届くように、丁寧に書かれている。
例えば、「Q31 偏食が激しいのはなぜですか?」についての回答。「食品は味も色も形もひとつひとつが違います。普通はそれが楽しみなのですが、自閉症の人にとっては、自分で食べ物だと感じたもの以外は、食べてもおいしくありません。それは、まるで原っぱでままごとのご飯を食べさせられているように、つまらないものなのです。」
この文章を読んではっとした。私は、それまで、偏食があるのは自閉症スペクトラムの特徴の一つである「こだわり」から来るものなのだろう、くらいにしか考えられていなかった。
著者が語ってくれているような心象世界の一端を解っているのと、解っていないのとでは、接し方に大きな違いが出て来るはずである。

他にも、自閉症スペクトラム児に関わる人は、以下の部分だけでも押さえておくべきと感じた。
Q9より「普通に返事をするだけでも、「はい」と「いいえ」を間違えてしまう」(…Yes,No質問で聞けば必ず正しい答えが返ってくるというわけではない)
Q13より「ひとりが好きだと言われるたび、僕は仲間はずれにされたような寂しい気持ちになるのです」(…一人でいるからといって、一人でいたいわけではない。放置しないように)
Q53より「もし、人に迷惑をかけるこだわりをやっているのなら、何とかしてすぐにやめさせて下さい。人に迷惑をかけて一番悩んでいるのは、自閉症の本人自身なのですから」(…他人に乱暴を振るうようなこだわりはやめさせるべき。本人も本当はやりたいわけではなく、後から傷つく)
Q56「(視覚的なスケジュールは)やる内容と時間が記憶に強く残り過ぎて、今やっていることがスケジュールの時間通りに行われているのかどうかが、ずっと気になるからです」(…もちろん視覚的スケジュールに救われている子はたくさんいるだろうが、本人達がどう感じているのか、視覚的スケジュールに頼り過ぎていないかという視点は必要と感じた)

このように、自閉症スペクトラムに関わる人達や、もしかしたら当事者にとっても実用的に役立つ本であるが、視点を変えると、本書は自閉症スペクトラムに関係なく、哲学書とかそういう本としても読めるように思う。

自分のことをこれだけ客観的に見つめ、なおかつ人に説明することが、振り返って、中学生の時の自分に出来ただろうか?中学時代どころか、今でさえ私には無理である。
自分の行動を、内面を、思考を、外国人なり、異世界人なりに説明しなさい、と言われて、著者のように説明できる人が果たしてどのくらいいるのだろう。
そういう意味でも、本書には驚嘆するばかりである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 発達障害・療育
感想投稿日 : 2017年1月31日
読了日 : 2017年1月31日
本棚登録日 : 2017年1月31日

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