五輪書 (ちくま学芸文庫 ミ 15-1)

  • 筑摩書房 (2009年1月7日発売)
3.64
  • (6)
  • (11)
  • (19)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 404
感想 : 17
4

宮本武蔵の書いた剣術、兵法の極意。
地の巻、水の巻、火の巻、風の巻、空の巻きがある。

含蓄ある言葉が多い。剣術のことに限らずバランスの取れた
見識。

今、この書を作るといへども、仏法・儒道の古語をも借らず、軍記・軍法の旧きをことをも用ひず。この一流の見立て、実の心を顕すこと、天道と観世音を鏡として、十月十日の夜、寅の一点に筆をとつて書きはじむるものなり。

先づ、武士は、文・武二道と言ひて、二つの道を嗜むこと、これ道なり。

世の中をみるに、諸芸を売りものに仕立て、わが身を売りもののやうに思ひ、諸道具につけても売りものに拵ゆる心、花・実の二つにして花よりも実の少なきとろこなり。とりわきこの兵法の道に、色を飾り、花を咲かせて術を衒ひ、あるいは一道場、二道場などいひてこの道を教へ、この道を習ひて、利を得むと思ふこと、誰かいふ「生兵法、大疵のもと」、まことなるべし。

第二水の巻。水を本として、心を水になすなり。水は、方円の器に従ひ、一滴となり、蒼海となる。

第四風の巻。この巻を風の巻としるすこと、わが一流のことにあらず、世の中の兵法、その流々のことを書き戴するところなり。風といふにおいては、昔の風、今の風、その家々の風などとあれば、世間の兵法、その流々の仕業をさだかに書き顕す。これ風なり。
他のことをよく知らずしては、みづからの弁へなり確し。道々事々を行なふに、外道といふ心あり。日々にその道をつとむといふとも、心の背けばその身は良き道と思ふとも、直ぐなるところより見れば実の道にはあらず。実の道を極めざれば、少し心の歪みについて、後には大きに歪むものなり。もの毎に余りたるは、足らざるに同じ。よく吟味すべし。

道において、儒者・仏者・数寄者・しつけ者・乱舞者、これらのことは武士の道にてはなし。その道にあらざるといふとも、道を広く知れば、もの毎に出合ふことなり。いづれも、人間においてわが道々をよく磨くこと肝要なり。

当世においては、弓は申すに及ばず、諸芸花多くして実少なし。さやうの芸能は、肝要のとき役に立ち難し。

第一、邪悪でないように心すること。
第二、兵法の道の稽古に励むこと。
第三、もろもろの芸能・技芸に触れること。
第四、さまざまな職の道を知ること。
第五、なにごとであれ、ことの利害・得失を心得ること。
第六、ものごとの良否・真贋を見分けること。
第七、目に見えないところを感得し、察知すること。
第八、些細な事柄にも心を配ること。
第九、役に立たないことに手を出さないこと。

兵法心持ちのこと。

兵法の道において、心の持ちやうはつねの心に変わることなかれ。つねにも、兵法の時にも少しも変わらずして、心を広く、直にして、きつくひつぱらず、少しも弛まず、心の片寄らぬやうに、心を真中に置きて、心を静かに揺るがせて、その揺るぎの刹那も揺るぎやまぬやうに、よくよく吟味すべし。
静かなる時も心は静かならず。なんと速きときも心は少しも速からず。心は体に連れず、体は心に連れず。心に用心して、身には用心をせず。心の足らぬこと無くして、心を少しも余らせず。
心の内濁らず、広くして、広きところに知恵を置くべきなり。知恵も、心も、ひたと磨くこと専なり。知恵を研ぎ、天下の理非を弁へ、もの毎の善悪を知り、よろづの芸能、その道々を渡り、世間の人に少しも騙されざるやうにして後、兵法の知恵となる心なり。

眼の付けやうは、大きに、広く付くる眼なり。

敵に成るといふこと。
敵に成るといふは、わが身を敵に成り替りて思ふべきといふところなり。世の中を見るに、盗みなどして家の内へと籠るやうなる者をも、敵を強く思ひ做すものなり。敵に成りて思へば、世の中の人を皆相手として、逃げこみてせむかたなき心なり。とり籠る者は雉子なり。打ち果たしに入る人は鷹なり。よくよく工夫あるべし。
大きなる兵法にしても、敵といへば強く思ひて、大事にかくるものなり。われつねによき人数を持ち、兵法の道理をよく知り、敵に勝つといふところをよく受けては、気遣ひすべき道にあらず。
一分の兵法も、敵に成りて思ふべし。兵法よく心得て、道理強く、その道達者なる者に会ひては必ず負くると思ふところなり、よくよく吟味すべし。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年3月30日
読了日 : 2019年3月30日
本棚登録日 : 2019年3月30日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする