こころ (岩波文庫 緑 11-1)

著者 :
  • 岩波書店 (1989年5月16日発売)
3.99
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本棚登録 : 1783
感想 : 184
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後期三部作の3作目。国語の教科書や入試試験で扱うことも多いこともあり知名度が高い作品です。
内容は3部構成となっていて、最初が「私」が「先生」と出会い交流を深める“先生と私”、実家に帰省したが腎臓病の父が危篤となりなかなか東京に帰れなくなった中、先生から長い手紙が届く“両親と私”、そして本作のメインの話となる先生から届いた手紙の内容である“先生と遺書”で物語は締めくくられています。
主人公は「私」ですが、後期三部作の前2作と同様、主役である「私」は狂言回しであり、実質は自責の念を綴った手紙を通して「先生」の過去を語った物語となっています。
“先生と私”で、先生は何か過去に秘密を抱えているかのような言動をしており、その理由についてヒントのようなものが見え隠れします。
そして、“先生と遺書”でその謎が説明されるような流れとなっています。
“先生と私”で張られた伏線が“先生と遺書”で解消されるような形になっていて、謎解き小説を読んでいるような面白さを感じました。
読了後、再読するとまた別の感想を持つと思います。

有名作ですが、後期三部作に名を連ねている通り、テーマは人間のエゴイズムとなっています。
エゴイズムとは何かと言うと、他者の不利益を構わずに自己の利益を優先させることで、本作はまさにエゴイズムの果て、感情の暴走から生まれた悲劇を謳ったものとなっており、暗く悲しい内容となっています。
登場人物は少なく非常に読みやすい作品で、有名作ということで高校生でも手に取りやすい作品ですが、胸を打つほど辛い先生の独白は大人になって再読することでようやく理解できる部分があると思います。
もし、学生時分に本作を読んだならば、年月が経ってからもう一度繙くことをおすすめします。

内容は結構エグいです。
嫉妬と焦燥の応酬でぐちゃぐちゃになった先生の感情、そんな先生の感情を知らず、想いの伴った交友を続けてしまう親友とお嬢さんへの愛憎が克明に描かれています。
その果に利己的な行動をしてしまった先生の言いしれぬ後悔の様が悲しく、恋愛をテーマにしたストーリーは現代もいくらでもありますが、恋愛としては成就しているというのに、ここまで悲しいストーリーはないと思います。
物語のスタート時点でそれらは経過後であることも加えて胸を打つものがありました。
また、個人的には、影が見え隠れしいる先生に惹かれる「私」の形容しがたい感覚もまた本作の見所と感じます。
本作は先生の遺書の内容で終わっていますが、先生の元へ戻り付いて、誰にも打ち明けられない先生の吐露を胸にしまった私が先生と対峙したとき、どういう感情が呼び起こされるのか、その後の物語が読んでみたい気がします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫
感想投稿日 : 2019年2月16日
読了日 : 2019年2月16日
本棚登録日 : 2018年12月29日

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