島崎藤村による長編小説・夜明け前。
岩波文庫版では二部作の本作をそれぞれ上下巻に分けた全4冊で出しています。
本書はその第二部下巻で、夜明け前の最終巻となります。
第一部全編、二部上巻と、鎖国状態だった日本の浦賀にペリーが来航したことから始まる動乱の時代を描いてきました。
馬籠宿本陣の十七代目当主・青山半蔵は、学問を好み、平田門人として国学に浸透してきたため、一部のラストで明治維新、王政復古と成ったころで、半蔵の期待もいやが上にも高まりだす。
だが、急速に西洋化を目指す政府の方針により、生活が翻弄されてゆく中で、彼の思い描いていた王政復古とは異なるものを感じます。
そんな半蔵の思いとは別に、時代は刻一刻と進んでいきます。
半蔵の生活と、彼の生きる時代でおきた一大事件は密接に関連していますが、半蔵はその時代に生きる一庄屋の旦那に過ぎず、彼にとって明治維新とは不可変な大きな出来事です。
半蔵は確かに、この小説の中心人物として書かれていますが、二部上巻の前半までにおいては、歴史的背景の記載に多くのページが割かれていて、小説というよりも歴史の教科書のような内容となっていました。
詳しくは、一部上下巻、二部上巻の感想に書いたのですが、正直なところ読んでいて眠気を覚えました。
ただ、二部上巻の中頃からようやく半蔵の物語にシフトしてきます。
特に二部下巻の本作は、完全に半蔵が主役の小説で、ここにきてやっと面白くなってきたと思いました。
ここに至るまでの出来事があってこその本書の内容となるのですが、これまでの内容は二部下巻のためにあったという感じすら受けました。
それほど本書、二部下巻は小説として面白く、二部上巻までは読書に義務感じみたものを感じていたのですが、二部下巻からは楽しんで読むことができました。
二部下巻では、それまであった歴史的背景の説明が少なく、半蔵を中心に書かれています。
本陣問屋が廃止となったことで、逆に家族と一緒の時を過ごすことのできた半蔵は、周囲の人々のため国有化されていた山林を開放するよう訴えを起こす。
いわゆる"山林事件"と呼ばれるその活動により、半蔵は戸長を罷免されてしまう。
その後、半蔵は、学んできた国学を活かすべく教部省に出仕するも、半年ほどで辞職してしまう。
そして半蔵は、憂国の和歌を書き記した扇を明治天皇の行幸に投げ入れ、その場で取り押さえられてしまう。
旧家に生まれ学問を好み、家族にも周囲の人々からも慕われた彼が、発狂して獄中死することとなったのはなぜか、明治維新前後の日本にどういった思いを抱いていたのか、全ての考えが書かれているわけではなく推し測るところもあるのですが、本書を通して半蔵が思い描いた日本が伝わってきました。
日本の近代文学の代表として掲げられるべき大作だと思います。
- 感想投稿日 : 2021年7月22日
- 読了日 : 2021年7月22日
- 本棚登録日 : 2021年6月15日
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