清兵衛と瓢箪・網走まで (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1968年9月17日発売)
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感想 : 51
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解説にて日本近代文学者の高田瑞穂氏はこの作品集の作品ごとの感想を述べたあと、志賀直哉の作品性についてこう述べる。「......直哉の作家的自我確立の営みが、終始自己に誠実なものであったことは明らかであろう。直哉はあくまで自我中心的であった。」ここで浮き彫りになる直哉の自我中心である姿勢というのに、何かを感じずにはいられない。私には二十四歳の今の段階で、師や父というものを持てないのではないか、という考えが湧き上がってくる。自分が自分であろうとするほど彼らの考えと容赦なくぶつかり、失望させているのではないか。そんな私の不安めいたものともいえる気持ちに、志賀直哉の作品らがやさしく寄り添ってくれているようである。
さて個々の作品についてはどうだろう。改めて目次を開き、各題名をみると、「彼と六つ上の女」「母の死と新しい母」を特におもしろく読んだ覚えがある。どうやら私は志賀直哉の女性に対する眼差しがつよく現れている作品が好きらしい。前に読んだ『小僧の神様・城の崎にて』のときも「佐々木の場合」などをおもしろく読んだ。はじめはその相手に羨望を覚えているのが最後には落ち着いていく、またはその女性を元の姿として視界に収めようとする成り行きに心の底で頷いている。なんだか女性というものに対する青年期の男性のひとつの答えのように私には思える。初読のときに目に留まるのはついついこんな作品たちばかりになる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年3月3日
読了日 : 2022年3月3日
本棚登録日 : 2022年3月3日

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