物語とは比喩の世界であるというような言説はおそらく在って、というのもなんかでそのように読んだ気もするし私も基本的には同意で、それはテーマやキャラクターやセリフに貌を変えてあらわれるのだろう。それが正体こそ嘘っぱちでしかないはずのフィクションの意義という側面がある。
小説の読書という行為の成果のひとつにはその、作者がこめた(のかどうかは実はどうでもいいことのような気もするけど)比喩を読者が読み取る•感じ入ることがあると思う。
この本にも、大きく"バートルビー"という人物としてなにかの比喩は表れているんだろうし、おそらく多くの読者がバートルビーが体現している比喩とは何なのかみたいなことを読みながら考えたり読み終えてから考えたりするだろう。
しかしながら私が「もしかして…?」と、見当違いの内省を多く孕みながら考えるのは、バートルビーも、この小説そのものも、なんの比喩でもないということだ。それは言い換えればフィクションへの皮肉であり、それでもメタフィクションにならずつまりはあくまでもフィクションという形態の中で物語という構造のひとつの側面を完全に拒絶するということでもある。捏造されたドキュメントとか光景の描写を、本来とは異なる意味で恣意的に書かれているのではないか。そういう可能性が、なくもない。なくもないというのが不気味なのである。つまり知ってかしらずか小説が「現実」に接近しているということで、それはややもすると「現実の比喩」と言い換えられなくもない。ああ袋小路だ。こんなこと考えずにすめばありがたいのですが……。
- 感想投稿日 : 2022年8月19日
- 読了日 : 2022年8月19日
- 本棚登録日 : 2022年8月19日
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