日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (岩波文庫 緑75-1)

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  • 岩波書店 (1981年8月16日発売)
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大学入試のために近代文学史を学んでいると、さまざまな「主義」や「派」があり、覚えるのに苦労します。中でも「新感覚派」は、単に「新しい感覚」であり、派というべき主義とも思えません。そして、その派に属するのは、川端康成と横光利一ですが、この2人の作風はかなり異なります。
横光の「新感覚」は、その硬質な文体と、容赦ない自意識にあります。病の妻を私小説的に描いた、「春は馬車に乗って」と、その妻の死を描く「花園の思想」を読めば、「新感覚」というものが、何よりも作者自身にとって、いかに苛烈なものだったかわかるはずです。愛する者の死を凝然と見つめ、その瞬間を見逃さず、その美しさに恍惚となる、という「新感覚」は、耽美的である一方、恐ろしく理性的です。
僚友の川端は、昭和22年、横光への弔辞に「君は終始頭を上げて正面に立ち、鋭角を進んだ」と記したそうです。そして現在でも、横光の作品は私たちに、その鋭さを突きつけてきます。(K)
紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2010年1月号掲載

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感想投稿日 : 2022年10月6日
読了日 : 2022年10月6日
本棚登録日 : 2022年10月6日

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