他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ

  • 文藝春秋 (2021年6月25日発売)
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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で最も反響があったのがエンパシーの件だったらしい。それを受けて、著者がエンパシーを思索する旅に出る。旅というのは偶然の出会いと発見の連続なので、本作も旅のごとく脈絡のない形で色々な角度からエンパシーの考察が繰り広げられる。それが体系立っていない印象を与え、分かりにくさに繋がっている気はする。

また「多様性社会を成り立たせる要素として人と人との関係性の中にあるエンパシー」について理解を深めることを期待して本書を手に取ったけど、どちらかというと「エンパシーの有無が社会経済にどういう影響を及ぼすか」に寄っており、期待した内容とずれていたという意味でがっかりした。

著者の主張をシンプルにまとめると、
アナーキック=自立すること
エンパシー=他人の立場を考えること
その二つのバランスを取ることが肝要だということ。どちらかだけでは足りないと。

気になったところは以下の通り
・アナーキック・エンパシーの考え方がかなり西欧社会の思想を土台に置いているので、アジアに広がっている「無私の境地」といった思想と比較検討してみたいと思った。
・著者の立場は一貫して「貧しい人へのシンパシーを抱く=反緊縮」で、それを推し進めるエリート層が貧困層に対するエンパシーが足りていないと指摘する。それはそうなんだと思うけど、著者が圧倒的に同時代を生きる人々の貧富の格差に着目し、世代間格差を無視しているのはどうなのかと感じてしまった。(浅学な私の現時点の理解は、財政赤字は将来世代に借金の返済を押し付ける形で現代世代が豊富な行政サービスを受けている状態だと思っているんだけど、どうなのでしよう)世代間格差と今を生きる世代の中での貧富の格差を是正するための再配分をどうするか、という両者を踏まえて止揚しないといけないんじゃないかなと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2022年3月24日
読了日 : 2022年3月24日
本棚登録日 : 2022年3月11日

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