光の公女―グイン・サーガ(27) (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房 (1987年8月1日発売)
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本棚登録 : 263
感想 : 8
5

やっと文庫版を手に入れました。最新刊以外はなかなか置いてある書店が無いうえ、通販でも新品で続きの巻を揃えるのが難しい作品ですね…。

さて、ついにイシュトヴァーンとアムネリスが相見える時が来ました。お互いに曰く付きの恋に傷つき、それぞれ多くの苦難を乗り越えてきた二人。イシュトヴァーンとアムネリスは、パロのナリスとリンダの二人に自尊心を傷つけられたり、愛憎入り混じる感情を抱いている点、私は心を通じ合わせる素地があると思っていました。しかし、お互いの迸るプライドの高さから、初対面で相手を見下し合うという、対話と協働には程遠いやり取りをしてしまいます。そのため、可哀想なアリさんがやっとこさ実現させた会談も、あわや破談するところでした。
しかしながら、もう一歩のところでなんとか感情を退け、現実的かつ合目的的に判断することで、お互いの利害のために手を取り合うことになりました。
本巻はこの一連のイシュトヴァーンとアムネリスの感情の推移を上手に見せてくれた。スッと納得できる感情の動きだった。
いまの二人は王になることとモンゴール再興という誰しもの目に見える実利で結びつくだけだが、お互いの昏い、秘めた望みで結びつけば、より分かち難い繋がり方をするように思う。
すなわちアムネリスはナリスを殺して自分のものとすること、イシュトヴァーンはリンダを殺して自分のものとすることを胸に秘めており、この感情のベクトルは大きさも方向もほぼ一致しているからだ。お互いの恥部である以上、曝け出すのは容易ではない。しかし、彼らがお互いの望む結末の相似に気付いたとき、昏く冷たい引力で剛結するのではないかと考えた。
それにしてもお互い、望みを叶えることができても、絶対に幸せになれないバッドエンドが確定している点が健全ではない…。実世界で自分が関わる場合、絶対に御免蒙りたい精神の持ち主であるが、ふと省みると、望んで手に入らないものをむしろ壊して誰も得られないようにしようとする傲慢な考えは自分にもあるようにも思え、とても恐ろしくなった。
何となく、反省を促してくれる巻であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年12月22日
読了日 : 2019年12月22日
本棚登録日 : 2019年12月19日

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