海と毒薬 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1960年7月15日発売)
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感想 : 892
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和風「少年の日の思い出」ハードモード
心のなかに罪の意識を抱えながら、変わらぬ日常を送る人々の不気味さが際立つ内容でした。

冒頭の十数ページでそんな罪を抱えながらも変わらぬ日々を送る人々の恐ろしさを感じられるのも本書の魅力でした。また、印象的なのはp144の戸田の独白。

『ぼくはあなた達にもききたい。あなた達もやはり、ぼくと同じように一皮むけば、他人の死、他人の苦しみに無感動なのだろうか。多少の悪ならば社会から罰せられない以上はそれほどの後ろめたさ、恥ずかしさもなく今日まで通してきたのだろうか。そしてある日、そんな自分がふしぎだと感じたことがあるだろうか。』

罪に対して罰や赦しを与える神を持たないから、罪悪感を持ってもそれをどうすることもできない。もっと言えば社会や世間から罰せられなければ悪にすらならない。だから日常を過ごすこともできてしまう。匿名の名のもとに口撃を行いながら平素では善良な人など、今でもこうした姿は感じられるのでこの独白は印象的でした。

こうした罪悪感に対して良心の呵責が働くのか。そもそも良心の罰とは存在するのか。そんな問いがあるという解説を読んで、たしかにな…どうなんだろ…ととても考え込んでしまう読後感でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月8日
読了日 : 2023年12月8日
本棚登録日 : 2023年12月7日

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