沈黙 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1981年10月19日発売)
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罪悪感で苦しむ人にオススメだと自分は思いました。
恥ずかしい話、自分は過去に恋愛で部活の人間関係をめちゃくちゃにしてしまったことがあります。そのことに関して10年経っても悔いて罪悪感に苛まれています。
そんな自分はこの作品に出てくるキチジローに共感してやまないのです。
この作品は鎖国中の日本に密入国した宣教師ロドリゴがキリシタン禁制による残忍な拷問や奸計を前にして神の存在に疑問を抱いていく話です。
そのなかでロドリゴの前に度々現れるキチジローはキリシタンでありながら軽い拷問に恐れをなしたり、欲に眩んで何度もキリスト教を捨てては出戻るやつです。そんな彼の家族もキリシタンです。実は家族まとめて引っ捕らえられたときに彼だけはキリスト教を捨てて生き延び、兄妹は火刑に処され殉教したという過去が彼にはあります。
自分の命可愛さに背教し、同時にキリスト教と身内を見捨てて逃げたという後ろ暗さを経験したキチジロー。彼の言い分は、自分は弱い人間として産まれたから殉教なんて強い意志を必要とすることはできないとのことです。はたから見たらとんだクズ野郎ですが、なぜか憎みきれない。むしろ共感のような他人事として見れない複雑な思いを彼に対して持ってしまう。
それはキチジローのいう弱いゆえに逃げるのは仕方がないじゃないかという甘えを読者である自分も経験しているからなのかもしれません。自分は弱い人間だから逃げてしまうのは仕方ないんだ、だから許してくれ!という言い訳。そしてこの逃げ口上は相手に対しても自分にとっても十全なものとはならないことを、同じ経験をした人ならわかるんじゃないでしょうか?
十分でないからこそ、反省したと思っても同じ過ちを繰り返してしまう。自分でいえば仲間の大切さをわかりながらも、我欲のために壊してしまい、そのたびに自分を弱い人間に見せて被害者のような面をしながら逃げてしまう。若気の至りといえば可愛いですが、それで仲間の輪を拠り所にしていた人たちからしたら本当に迷惑です。
自分の意志の弱さとでも言えばいいのか、それを自覚的な人間にとってはわかっているのに直せず過ちを繰り返して苦しみを増やす気持ちが痛いほどわかります。そして、そこで同じように出口のない苦役の山を迷うキチジローを見るとこの苦しみは自分独りではないという不思議な気持ちになります。それは物語のなかでロドリゴが見出すものに近いのではないかとも思えます。
苦しみのなかにいる人に寄り添うような、そして出口はないがただただ隣人と共にあるという安心とも言える感覚を感じる読後感でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月1日
読了日 : 2023年12月1日
本棚登録日 : 2023年11月29日

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