小説の神様 あなたを読む物語(上) (講談社タイガ)

著者 :
  • 講談社 (2018年8月22日発売)
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感想 : 48

※思いの外長く語っており…※

表情を険しくして読んでいたことが多かった。
小説が好きだと思う自分は何なのか、強く突きつけられる作品だったからだ。
小さい頃から読書が好きで、また学生時分の10年以上に渡って趣味で執筆もしていた。
書き手側としても、読み手側としても、抉ってくる内容だった。

自分は物語は娯楽だと思っている。
教養書と違って、楽しむ、ということが大前提だ。(もちろん学ぶことが楽しいと思うこともある)
でもそれは、何かを学ばないというわけでは決してない。
学びを得るのか得ないのか、それはまさしく読者側の問題だ。
逆に小説の中で、作者が「これは絶対に正しい、こう考えて感じて下さい」と意見を押し付けようものなら、一気に興醒めしてしまうだろう。
考える余地、感じる空白、これが能動的読書に必要なものだと個人的に思っている。

でもここしばらくの自分は読者として、一冊一冊と向き合い、自分なりの気づきや学び、感動を得られていただろうか…
心動かされて泣いたり怒ったり笑ったり、そういった反応をすることはある。
けれど大人になってから、沢山の物語を消費できるようになってから、ストーリーの細部が深く記憶に残らなくなってしまったという実感が強くある。
同じ小説を読み返すことも全くない。
次々と消費していくばかり。
自分は、物語を読んでいると言えるんだろうか…

買いすぎてしまうのも問題ではあるんだろう。
やはり社会人となると時間が取れなくてどんどん積まれてしまう本を、とにかく一冊でも早く消費しようとする。
こうやってブクログで感想を残すことも、忙しくて最近はやっていなかった。
するとやはり、内容がすぐに消えていってしまう。
なんて浮かばれない本たち…心を過ぎ去っていくばかり。
確かに楽しんではいるはずなのに。その本に何が返せているんだろうか…

**

けれど自分は秋乃のように、自分が読んでる物語を他人に見られて恥ずかしいと思ったことは一度もない。(そしたらブクログもつけていないし)
絵本、児童文学を経て主にラノベの方へ進んだクチではあるけど、布教こそが読者の使命と信じて、面白かったものは何でも周りに勧めて貸していった。
もちろん作中では性格や幼少期の体験もあってのことなのは読み取れるけれど。
読んでる本を隠してしまう行為は、やはり作品と作者に申し訳が立たない。
大切な宝として刊行された本なのだ。
(趣味としてえっちな本を自分で読むことはないので、それが加わったらまた違うかも知れないけど)

**

作中では、近年出版業界で問題などになってることにも触れられている。
海賊版サイトの問題や、流行に乗る作者と読者のことなど。

漫画と小説の価値観や、商業としての執筆など、確かになぁ!と思える部分も多くあった。

近年自分も書店でラノベ売り場を、どれも同じようなタイトル、イラスト、ストーリーばかりで
全く興味を惹かれないなぁと思って見ていた。
そのためか少しラノベ離れも進んでいる気がする。
そうやって離れていく読者がいる一方で、なんかいっぱい積んであるから読んでみようかなと手に取る読者もいて、そしてそれが大多数なんだとした意見に思わず呻る。
内容が面白いかどうかはこの際どうでもいい。
とにかく目について実際に買われるかどうかが大事だからだ。

でも、昔小説を書いていた自分は思ってしまう。
没個性な物語を書くことに作家としての意味はあるのかと。
自分がしたような、泣いたり笑ったり学んだりといった読書体験の出来るような物語を、読者に味わってもらいたい。実際自分ではそれが書けないとわかって自分は創作をやめてしまったけど、でもやはり物語というのはそうあって欲しいと未だに思ってしまう。
けどそうした全霊を込めた物語は、今の人たちにはウケない…
もちろん量産されている流行りの作品に価値はないとは思わないし、その中から得られる体験もあると思う。ただ流行が去った後に、その物語は読者の中にどういった残り方をするんだろうか…
売りたいのか、信念や個性を貫きたいのか
きっと、唯一無二の物語を作りたいと思って作家を目指した人たちは、本当に苦しんでしまうと思う…。

まとまりや主旨がなくなってきたのでとりあえずこの辺りで。
なんだか全部読み切ったあとみたいな熱量で書いてしまったけど
後日下巻を買ってこよう…

ちなみに自分はこれを続刊だとは知らないで買ったけど
現時点で十分面白いので
続刊を書く意義はあると思うよコユルギさん!(そういう意味ではない)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ライトノベル(日常・恋愛)
感想投稿日 : 2020年9月15日
読了日 : 2020年9月15日
本棚登録日 : 2018年9月22日

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