さよならクリストファー・ロビン

著者 :
  • 新潮社 (2012年4月27日発売)
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本棚登録 : 629
感想 : 88

文学賞受賞作とはいえ、恐らく通常であれば絶対自分では買わない本。失礼を承知で言うならば、通常であればミステリやら耽美なものやらバディものやらが中心で、たまにSFやファンタジーと言ってもいかにもそれらしい単語で煽られたりしないとなかなか知らない作家など手に取らず、唯一別ルートが「装丁買い」なので、申し訳ないけれどこの単行本の表紙は全くもって私の琴線には引っかからない。
ではなぜこの本を読んだか。いわゆる「ブラックボックス式」で購入したためです。とはいえあんまりそういう買い方もしないのですが、たまたま店舗限定版でたまたま通りすがっちゃって、何よりいちばん大事な紹介文がなんとなく引っかかった。あとはそこのブックカバーが好きだったから(笑)。
なので、普通では絶対に巡り合わないであろう本を読む機会を得て、それがまた結構良かった。こんな偏読な自分でもブラックボックス式の恩恵を受けられたので、案外良いもんなのだなと。(でもこれって選別者の人と趣味が合わないと成立しないと思っているので、いまだに信じきれないところはあるのは許してほしい)

さて本編。
帯は「第48回谷崎潤一郎賞受賞」のみ。裏にはこの一文

”最後に残ったのは、きみとぼくだけだった―お話の主人公たちとともに「虚無」と戦う物語。”

他にあとがきもあらすじも無い。
強いて言うならばダークファンタジーに近い。しかも皆がよく知っているようなあの物語や登場人物たちも多い。けれども残酷だとかそういうことではなくて、裏側とか見えなかったところとかもう一つのあったかもしれない話のような、外側から語られていたものを内側から語るような。優しくて悲しくて寂しくて暖かい。
短編のようで繋がっているような、同じ世界のようで別の世界の中で、最初に感じたわずかな不安、寂しさ、悲しみ、ゆっくりと確実に大きくなる感覚はまさに”虚無”。
いくつかの世界を渡り歩いてきたようなラストは、読者もまた銀河鉄道のようなその列車に乗ってきたのだと、ふいにシンクロした瞬間にふわっとそのまま浮き上がって暗く深い宇宙に飲み込まれる。

これが幸せな話なのか悲しい話なのかはなんとも言えないけれど、少なくとも読後感はとても良い。痛みを超えて脳内麻薬で何も感じられなくなった幸福感のような。良くも悪くも天国とはこういうところなのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月23日
読了日 : 2020年8月23日
本棚登録日 : 2020年8月23日

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