田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)

著者 :
  • 講談社 (2017年3月17日発売)
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本棚登録 : 453
感想 : 42
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ツイッターなどで見かけ、気になっていた本書。
いつか読もう読もう、と思う内に、気がついたら文庫になっているではありませんか!

イーストなどを使用せず、天然酵母や天然麹菌によってパンをつくり、店を経営する著者による本書。
面白いのは、マルクスの『資本論』をはじめ、いくつかの経済書を引用しながら、彼らがつくるパン、経営、労働についての考え方を言葉にしているところ。
複数の論点、かつ、著者の学生時代も含めると長いスパンの話を扱っているにもかかわらず、構成がとてもよく整理されているので、するすると頭に入る。
何より、著者が30歳にしてはじめて本格的な社会人として働きはじめてから遭遇する様々な理不尽や矛盾が、とても他人事とは思えず、はらはらさせられ通しである。

今の資本主義社会の中で、おカネがあふれ続けている……というくだりで、ふと『千と千尋の神隠し』の“カオナシ”を思い出す。
実体のない経済がどんどん膨れ上がりバブルが爆発することと、映画でのカオナシのくだりはとてもよく似ている。
カオナシは、銭婆のもとで仕事を与えられて穏やかな横顔をみせるようになるけれど、じゃあおカネは?
本の中で、著者は菌の声を聴いてパンをつくっているけれど、もしおカネの声を聞くことができたら、どんなことを言うだろうかと考える。
私のお財布の中のおカネたちは、もうちょっと大切にして、少なくともすぐレシートで財布のなかパンパンにするのはやめて、と怒っているかもしれないな。

資本主義社会の中で、どのように気持ちと生活の折り合いをつけて生きていくか。
正解のない問いに、果敢に挑む著者夫婦の姿が印象に残る1冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年6月3日
読了日 : 2017年5月26日
本棚登録日 : 2017年5月26日

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