結ぶ (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2013年11月29日発売)
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本棚登録 : 613
感想 : 41
4

『世にも奇妙な物語』が好きで、時おり特別番組で放送される際は、なるべく食事の仕度とお風呂を先にすませておいて、じっくり観ています。
ふと、久しぶりに読書の時間でも、奇妙で、辻褄が合わない世界にひたりたい、でもって、美しければなおよし……と、色々探して行き着いたのがこの本。

本書には、ミステリのようでもあり、とはいえ、トリックと犯人のいない、ファンタジーと怪奇が入り交じった物語ばかりが18個おさめられています。
著者の皆川博子さんは1930年生まれ。
著者が主に1990年代に発表した作品が集められており、やや舞台設定に時代を感じるものの、20年の経過を感じさせない力があります。

どの作品も物凄く奇妙で濃いのですが、特に好きだったのは「水色の煙」。
伯母である「私」が、母親からあずけられた甥と過ごした夏の日々を語りだすのですが、途中、甥が納戸で「私」の「脚」を見つける、というくだりから、穏やかで郷愁に満ちた夏休みを取り巻く闇が徐々にあらわとなって……。
淡々とした語り口の裏側に透ける、悲しみと愛憎が、とにかく恐ろしい。
1度読み終えてから、再読すると、話の奇想天外さと相反して伏線や比喩が緻密にちりばめられていて、より一層、背筋が寒くなりました。

どの短編も、読んでいるとまるで頭の中に直接手をつっこまれて、三半規管をねじりあげられているような感覚を覚えるのですが、とにかくその握力がすごい!
思わず、「この物語、半端ないって!」と叫んでしまいそうになります。
立つこともままならない電車の中でも、あっという間に異空間に引きずり込まれ、戻ってきたときには、もろもろの現実を、少し距離をおいて眺められるーーああ、フィクションって、なんていいんだろう。

山の上ホテル(多分)のティーラウンジ、児童公園、夏休みに預けられた実家、写真館、バレエ教室といった繊細な舞台設定も魅力的で、例えるなら、中身のわからない高級なチョコレートトリュフの詰め合わせのような本書。
すっかり世界観に感化されて、とりあえず近いうちに山の上ホテルのティーラウンジには絶対行こうと決意したのでありました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年7月12日
読了日 : 2018年7月7日
本棚登録日 : 2018年7月7日

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