2010/10/23追記
コメントにあるリンク先を読み、検閲に対する著者の考えについて、私の理解が間違っていると認識しました。文字面にとらわれて表面的な理解をしてしまいました。申し訳ありませんでした。
以下の感想は一応その時に感じたことなのでそのまま残しますが、その中に含まれる著者の考え方に関する批判の部分は、私の浅薄な理解によるものだと割り引いてお読みください。
ずさんな読みにより、著者の人格を棄損するような文章を書いたことをお詫びします。
------以降、初読書時の感想------
電子書籍に関するアメリカの出版界の実情をざっくり知ることができるとても良い本だったが、ルポの一線を越えた著者の見解が示されたところに、いくつか違和感を感じた。
例えば6章のアップルに関する話の中で、日本のアニメや漫画を世界に輸出する上で暴力や性表現に関する文化的な違いが問題になるというような話になったのだが、そこでアップルの検閲が当然みたいな話になっているのに驚いた。
その話題に入るちょっと前に、「本を作ることに関わる人は、常に検閲という行為と戦ってきた」と検閲の悪さを書いているのに、それがたった3行後に、「ところが、ジョブスは潔癖主義者なのだろう。」の一言で、アップルの検閲がさも問題はあるけど間違いじゃないみたいな話になり、その後はアメリカの保守的道徳間の話で完全に検閲正当化の話になっている。
この検閲に疑問を抱かないのは、著者がすっかりアメリカ人になっているか、はたまた検閲の対象がロリだの萌えだのという著者にとってどうでもいい問題だからなのだろう。
ここら辺の自分の考えが絶対正義でみじんも疑うところもない姿勢に、鯨やイルカの捕獲に反対する自然団体と同じ傲慢さを感じた。
そしてなんといっても一番違和感を感じたのは最後の第9章。この章は完全にアメリカの話を離れ、日本の電子書籍に関する著者の見解を披露するという内容なのだが、電子書籍に関する著者の見解は自分とほとんど変わらないのに、この章での論理展開には一切全く同意できなかった。一言で言うと、9/11のテロを受けるアメリカの傲岸不遜さそのものが現れた吐き気がするような文章だった。
まず日本語が特別な言語でない話。仕事で英語が必要なのは当然という見解は同意するが、何故それが日本語を否定するという話になるんだ。
「日本語は世界一美しい言葉だ」という主張は別にただ単にその人の主観であり、他の言語を貶めるものでもなく、別に暴言には当たらない。どの国の人間だって自分の言語がすばらしいってことぐらい言うだろう。他の言語のことを知らなくても、母国語のここが好き、ここが美しいと感じるのは、(著者のように)よっぽど母国や母国語が嫌いな人間でもない限り、自然なことだ。
もちろん英語を学ばない言い訳にそういうことを主張するおっさんは俺も嫌いだが、しかし母国語が好きだってだけで「社会をガラパゴス化させ、外資を阻む勢力となる。」って書かれたら、フランス人やアラブ人じゃなくても、アメリカの文化帝国主義だって感じるだろう。
「日本の出版文化の話」。出版文化という言葉が既得権益と同じという見解は同意で、文化という言葉を隠れ蓑に著者や読者をないがしろにする人間は俺も大嫌いだが、しかし最後が、自由資本主義で、公平な市場競争により淘汰されるべきところは淘汰されるという安直な結論なのにはさすがにちょっと絶望した。
そもそもここで書かれているのはビジネスと経済の原理原則だけであり、それで文化がどうなるかについては全く考察されていない。市場主義は効率的な経済を生み出すが、しかしそれが文化的な意味でも最適な解を生み出すなんて保証されていないよ。竹中平蔵だってそんなこと言わないだろう。
一体どういう教育受けたら、こういう単純な古典的経済学脳が生まれるのだろう。
批判(非難?)ばっかりの感想になってしまったが、最初に書いたとおり、ルポの所だけは非常に分かりやすくうまく書かれている。ルポ☆3.5、著者の見解☆-1で、評価は星2つ。
- 感想投稿日 : 2010年9月26日
- 読了日 : 2010年9月26日
- 本棚登録日 : 2010年9月26日
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