歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

  • 早川書房 (2009年8月25日発売)
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感想 : 93
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読んでいて2つの点について考えさせられた。

1点目。地震のように、発生の物理学的メカニズムはほぼわかっているのに、天気予報程度の予測が出来ないのはべき乗則が原因だとのことだが、でもそうだとすると気になるのが、べき乗則になる理由だ。正規分布が中心極限定理で導かれるように、べき乗則についても個々の要素や要素間の関係について何らかの仮定が成立するときそれが導かれるという形で、由来が解明されるべきだと思う。地震、ネットワークの構造、富の分布というような、お互い全く関係性がありそうにない現象に共通的に見られる分布であるのなら、正規分布と同様に、「相互作用」する要素間に見られる本質的分布といった感じのかなり単純なルールでそれが導かれるのだと思われる。

2点目。本書でよく出てくる「予測できない」という言葉が出てくるが、その言葉の意味は、カオス的な意味、つまり初期値の微小な差により結果が大きく異なるので予測できないという意味(つまりラプラスの悪魔がいれば原理的には解消される予測不可能性)か、それとも不確定性原理的な意味での絶対的な予測不可能性なのか。別にべき乗則に従おうが何の分布に従おうが、確率的な現象は確率でしか予想できない。個々の現象の予測、たとえば震度7以上の地震が何カ月後にどこそこで起こる的な予想は、どんな分布に従ったとしても確実にはできない。しかしそれは前者的な意味の予測不可能性であり、はっきりいって当たり前といえば当たり前すぎることである。もっと根本的な、例えば未来における対象の状態を知ると対象の状態が定義出来なくなったり、あるいはその逆になったりといった根源的な意味での予測不可能性はないのだろうか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学読み物
感想投稿日 : 2010年7月18日
読了日 : 2010年7月17日
本棚登録日 : 2010年5月9日

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