わたしの外国語学習法 (ちくま学芸文庫 ロ 3-1)

  • 筑摩書房 (2000年3月1日発売)
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感想 : 107
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おぉぉ!!これ文庫本だったんですね。嬉しい。一年ぶりの帰国に先立ちここぞとばかりに奮発して五十冊ほどまとめて注文買したので、判型をすっかり忘れていました。続々と配達される本の山に呆れる両親。そして彼らを前にまたまた奇声を発する私。えぇぇ!訳、米原万里〜〜?!!米原さんの著書で紹介されてはいたけど、訳したとは書いていなかったぞ!滞在中は図書館の大型本にかかりっきりだったので、帰りの飛行機にて慌てて読了。

「英語通訳には面白くない人が多い。考え方もユーモアのセンスさえも常識の範囲を逸せず、ただただクソまじめで超勉強してそうな優等生タイプ」これは米原さん田丸さんの著書両方に、彼女たち自身の印象として、もしくは通訳派遣会社の方のコメントとして記されています。あこがれの大先輩に罵られたショック。それが英語能力くらいで口に糊しようなんて甘いと考え、留学そうそう子どもの頃からの夢だった通訳の道に見切りをつけてしまったことへの後悔と相まって、では第三外国語を!なんて不純な情熱がフツフツと腹の中で煮えたぎってまいります。

本書は、五ヵ国語で同時通訳、十カ国語で通訳、十六ヵ国語で翻訳をこなしたロンブー・カトーの外国語学習法をまとめたもの。彼女はこの方法で、九十才を過ぎても新しい言語に挑戦し続けました。彼女はハンガリー人、大学の専攻は物理化学。決して、父ポルトガル人、母ハンガリー人、スペインで育ち、フランスに留学、仕事でイギリスに住み、そこで出会った夫はイタリア人、家族がふえた今はドイツで... というような幸運なマルチ・リンガルではありません。卒業後の仕事が見つからず、需要のあった英語教師になろうと、英語の勉強にとりかかったのだそうです。

彼女は自身をそして本書を手に取るであろう多くの読者を「平均的学習者」と呼びます。つまり新しい言語を自動的に摂取してしまう年齢をとうにすぎた成人であること。またありあまるほどの時間はなく... とは言っても自由時間がほとんどないということもない人のことです。彼女の紹介する外国語学習法はそんな「平均的学習者」向けであり、なによりも大人が外国語を身につけるのには、子どもの頃に母国語を習得した要領ではだめだという考えに基づいてまとめられています。

「ロンブー・カトー式外国語学習法」
※以下の例に使われているアジール語は、外国語学習へのアプローチの仕方が一貫して同じであることを強調するための架空の言語です。

1. アジール・母国語辞典を購入
まず全世界共通の固有名詞や学術用語を探して読み方のルールを解読。ピラミッド、インターネット、ドストエフスキー、クレオパトラ、ツナミなど。

2. アジール語問題集と文芸書
問題集で基本的な文法を学んだら読書にとりかかる。一周目はわかった単語や活用だけに注目しながら。二周目以降は推察できたものや、重要そうな単語を書き出しながら。単語を文脈から切り離して孤立させないこと。

3. 当日のアジール語ニュースと母国語ニュースを聞き比べ
固有名詞を頼りに内容を推測。気になる単語を書き出し、辞書で調べる。アナウンサーの正しい発音とイントネーションを観察。

4. アジール語が母国語の先生 (できれば女性) を探す
ゆっくり何度も話してもらったり、宿題や慣用表現を直してもらったり。

5. 気に入った本を母国語に翻訳
歴史、地理、経済、文化などおカタイ科目にこだわらず、興味のあるテーマを選ぶこと。料理でもサッカーでもファッションでも!

6. アジール国を辞書を片手に旅行する 
絶対条件ではないが、映画館やアジール語での観光案内、興味あるテーマの講演会など、できる限り参加する。現地アジール人との行き当たりばったりな当たり障りのないの会話は言語習得の鍵ではない。

●外国語は四方八方から同時に襲撃すべき砦である。文法書にかじりついていてはいけない。新聞を読み、ラジオを聴き、文学作品を読み、字幕なしの映画を見て、大学の講義に参加し、教科書を学習し、その言語を母国語とする人たちと会話して、ありとあらゆる手段で陥とすべし。

●外国語の習得は関心の度合いと、この関心の対象を実現するために費やされたエネルギーの量にかかっている。「(費やした時間 + 意欲) / 羞恥心」
才能とはあくまで、語彙暗記力、音を模倣する能力、文法を解読する論理的思考力のこと。外国語学習に費やされた時間は、それが日単位、週単位で一定の密度に達しない限り無駄になる。週平均で十〜十二時間。

もとはといえば私は「星の王子様」を読みたくてフランス語を「ムーミン」を読みたくてスオミー語を、「モモ」はドイツ語で「ドン・キホーテ」はスペイン語で!などと夢想していて外国語に興味を持ちました。アラビア語で「アラビアン・ナイト」が読めたらロマンチックです。結局実現したのは「ハリーポッター」を英語で読むことだけなのですが、それでも読書中心の言語学習が紹介されていて嬉しかった。空想小説や児童文学好きには、勉強の格好な言い訳になります。

外国語学習をもっと楽しいものにしたい。それをたくさんの学習者と分かち合いたい。という彼女の情熱が伺える一冊です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ・Language
感想投稿日 : 2013年6月16日
読了日 : 2012年12月25日
本棚登録日 : 2012年12月25日

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