旅猫リポート

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年11月15日発売)
4.34
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感想 : 1489
5

泣くのは分かってたんです。
でも読むのを止められなかった。

自分もワケあって
5年間一緒に住んでいた黒猫(ヤミクロと言います)と
今離れて暮らしています。

そして5歳で死に別れた親父や
自分を捨てたお袋と最後に行った家族旅行の地が
物語終盤の舞台となる北海道だったことなど、
あまりに自分の状況や生い立ちとシンクロして
どうにも涙が止まらなかった。


5年間一緒に暮らしてきた
サトルとナナという野良猫。
しかしある理由から
サトルはナナを手放さなきゃならなくなり、
引き取り手を探すために
銀色のワゴンに乗り
昔の旧友の元へと旅立つことになります。

ナナは新しい引き取り手と出会う旅の中で
海の碧さや怖さを知り、
富士山に圧倒され、
馬や鹿に驚き、

サトルが見たナナカマドの実の赤や
完璧に弧を描いた二重の虹を
一生覚えておこうと心に誓うのです。


狩りをできない茶トラの子猫に
生きる術を教えるナナのシーン、

ナナと甲斐犬のトラマルの
主人を想うがゆえの
一歩も引けない喧嘩のシーン、

まるで「俺たちに明日はない」の
ボニーとクライドの名場面を思わす
詩情溢れるススキの海の中
ナナとサトルが
お互いの絆を確かめ合うシーン。

物語の中の印象深いシーンの数々は
そのまま自分とヤミクロの思い出と重なり
どうしようもなく
胸を焦がしていく。


最後までサトルの猫で居続けるために
暖かい場所を捨て、
野良になることも辞さない
ナナの誇り高き魂。


犬も猫も動物はみな
見返りを求めたりしない。

ただただ一所懸命に
愛するだけ。

動物に触れて
初めてそれが柔らかいことを知って、

世界は自分が思っている以上に
柔らかくて脆いことを知ったし、

震えてるあったかい小さな体は
日だまりの匂いがして、
愛しいという気持ちを初めて覚えた。

言葉を話すことのできない彼らに
人間が教わることは
たくさんあります。


しかし有川さん
箱型のテレビは猫の乗り心をそそるとか、
猫はいくら飼い主であろうと
己の信ずるところに従うなど
猫のことをホンマよう分かってるなぁ(笑)


ああ〜
無性にヤミクロに
会いたくなりました(>_<)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2013年5月28日
読了日 : 2013年5月28日
本棚登録日 : 2013年5月28日

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コメント 2件

まろんさんのコメント
2013/05/29

円軌道の外さん、こんにちは!

なんと、愛するヤミクロちゃんと今は離れ離れの生活なんですね。。。
先だってのお引越しと関係しているのでしょうか。
猫好きなら涙なしには読めないこの本ですが
そんな状態で読んだら、なおさら涙が止まりませんよね。

サトルの気負いのない優しさ、ナナの愛と覚悟に胸打たれる物語でした。
人と猫が一緒にいられるのは、長くても十数年。
私も、交通事故のせいでたった3年しか一緒に過ごせなかった子もいました。
でも、長かろうと短かろうと、巡り会って共に過ごせた幸せは消えることはありませんよね。
ヤミクロちゃんにも、円軌道の外さんの気持ちはしっかり伝わっていると思います!

円軌道の外さんのコメント
2013/06/12


まろんさん、
コメントありがとうございます!

そうなんですよ〜(>_<)
今会社の寮に入ってるので
猫飼えなくて
泣く泣く預かってもらってる状態なんです…

あのワガママ坊主が
何度となく
預け先を逃げ出そうとした話を聞くと
いても立ってもいられなくなるし、
1日でも早く迎えに行ってやらなきゃって思います(T_T)


まろんさんもツラい別れをされてるんですよね。

動物は、特に猫や犬は
ちゃんと記憶があるらしいですよ。

優しくしてもらったことは
忘れないんです。

猫は臆病やから
人間の笑顔が一番好きやし。

だから辛いことがあったとしても
最後の最後まで
笑顔見せてあげて
楽しい記憶を小さな心に
残してあげたらって思います。

それが人間ができる
一番の恩返しになると思うし。

例え別れても
共に過ごした思い出は消えてなくなるわけじゃないですよね。

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