寡黙な死骸みだらな弔い

著者 :
  • 実業之日本社 (1998年6月1日発売)
3.77
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本棚登録 : 198
感想 : 45
5

いやぁ〜面白かった!

死を扱いながらも、
これほど甘美で官能的な作品集は
そうそう
お目にかかれないんじゃないかな。


物語に施された仕掛けが解る頃には
ページを繰る指が止まらなくなる
圧倒的な筆力もスゴい。



それぞれが微妙に重なり合いリンクする
連作短編集だけど、

作品全体に漂う
静謐でいて
濃密な死の匂いと
秘密めいた背徳の香り、

視覚と臭覚を強烈に刺激する
美しく慎み深い文体に
ただただ
うっとりとしてしまいます。



腐っていく
苺のショートケーキや

キッチンで
密やかに泣く少女、

少女の唇からあふれ出す
キーウイの果汁など、

沢山の淫らでエロティックなものを
モチーフとしながらも
品性を失わない文体は
さすが小川さんって感じかな。



冷蔵庫の中で窒息死した息子のために、
誕生日のケーキを買いに来た母親を描いた
「洋菓子屋の午後」


謎の老婆が作るキーウイと
手の形をした人参の謎がコワい!
「老婆 J」


白衣のポケットから出てきたのは
干からびたプラムの実、球根、ミャミソール、聖書、コンドーム、
そして…!!
「白衣」


心臓を入れる鞄を依頼された職人の悲劇を描いた傑作
「心臓の仮縫い」


傷心の彼女が
古い家で見たものは、
様々な国で使われていた拷問器具の数々だった…
「拷問博物館へようこそ」


などなど
下手なホラーより怖くて
幻想的な全11編。



しかし小川作品を読むと
いつも死を考えさせられます。


動物にとっては
当たり前に受け入れるだけの「死」が
人間にとっては
あたかも異常なことのように
見なされてる現実。


人は生きていることが当たり前になって勘違いしてしまいがちだけど、
ちょっとした風向きの変化で
今ある命なんて
簡単に消滅してしまう儚い存在だということを
常にどこかに持っていなければと思う。


「自分は、死ぬところに向かって
生きているんだ……」

と漠然と考えるだけでいい。


それだけで
人への接し方や
毎日の選ぶ行動や
生きる姿勢までもが違ってくると思う。



とまぁ、そんなこんなで(笑)、
エロとグロが幻想的に絡み合う、
イッキ読み必至の
傑作ですよ〜(^_^)v

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年12月11日
読了日 : 2012年12月11日
本棚登録日 : 2012年12月11日

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