あるキング (徳間文庫 い 63-1)

著者 :
  • 徳間書店 (2012年8月3日発売)
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完全版が出ていたことは、たった今、登録するために検索して初めて知りました。少々勿体無いことをしたのかもしれませんが、古本市で偶然出会ったのだから仕方ありません。それに装丁も素敵なので満足です。そんなわけで古本市で一冊、と思ったときに目に入って。野球の話であること、フェアとファールの境界線という言葉がキーワードになっていること、などわくわくさせられる要素が満載とみたので、これだ、と。
伊坂さんといえば、ゴールデンスランバーでこてんぱんにやられた(=物語とはそういうもの、オチは色々、と分かっているものの、私に言わせると救いの無い最悪なオチにへ心底凹まされた)のですが、どうもこの作品は一味違うとのことで、武装しなくても大丈夫かな、と思いながら読み進めていました。割と早い段階で感付きはしましたが、やっぱり武装は必要でした。誤解のないように、私は伊坂さんの作品が嫌いなわけでも苦手なわけでもなく、だからこそ読むわけですが、この手のオチは毎回新聞とか障子とかを衝動的に破りたくなる位ムカムカするほど腹立たしくなってしまうし、そんな破壊行動を犯したところで満たされるわけでもないに決まっているし、要するにやりきれないので、それだけが辛いのです。不都合な現実を見なくてもいいのに見てしまった、と。でもやっぱり見ないといけない、みたいな。
来ないで欲しいと願ったオチの苦味が今は口に広がっていますが、それ以外にもご両親のライン際の愛情であったり王求に対する世間の目線、殺人者の子供の活躍が社会の秩序を保つのに「なんとなく」不都合だと感じてしまう人間の性など、心臓を直に掴まれたような気分になる話が沢山あります。罪だとか罰だとか、ということについては日本社会独特のものが絶対あるのだろうな、とふと思います。そういう概念は日本においてはふわふわとしていたものであったり、元は無くて外から制度としてやってきたものであったりするがゆえに、一点に留まらず周囲に滲んでいったりするのでしょう。ケガレの概念寄り、みたいな。哀しいな、と思う一方で、自分はどうなんだ、と。割り切ることは出来るのでしょうか。ここからはフェア、ここからはファール。むしろ、何なら、誰が何の権利があって線を引いたのか。最終的には哲学的な次元で考えざるをえないし、そういう次元の問題を問うてきているのがこの作品の強烈なところだと思っています。そもそも、そういうキーワードだったからこそ惹かれたのです。
最後に、解説が柴田元幸さんなのも忘れてはいけません。解説を読むだけでもお腹いっぱいになってしまう書き手は他にそう沢山はいないものです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年1月24日
読了日 : 2017年1月24日
本棚登録日 : 2017年1月24日

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