大好物である柴田元幸訳ポール・オースターの新刊。いつもの通り、「訳者あとがき」を読んでから本文に取りかかった。
乱暴にまとめてしまうと、「人生の冬」を迎えた初老の作家の回顧録ということになるのだろうが、そこはオースター。彼の深い思索というフィルターを通すと、何か詩的で味わい深い文章になる。
これまでに住んだ21箇所の家の記録こそ時系列だが、それ以外は時間を行ったり来たり。親、家族、恋愛・性愛、そして怪我・病気・事故。こうした過去の出来事を、かつての自分を「君」という二人称で呼び、少し突き放した形で書くことによって、読者と視線を共有している。
死んでいても不思議ではなかった体験など、かなり赤裸々に書いているのだが、それでも一向に世俗的なものを読んでいる感覚はない。それどころか、読み進めるにつれ、生と死について深く黙思せざるを得なくなってゆくのは、この作品の肝だろう。
本作を読んだ後、普段は受け取るばかりで、こちらからは出したことがほとんどないメールを離れて暮らす両親に出したことは、個人的なメモとして書き留めておきたい。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
本・雑誌
- 感想投稿日 : 2018年11月18日
- 読了日 : 2017年4月16日
- 本棚登録日 : 2018年11月18日
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