プールサイド小景・静物 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1965年3月1日発売)
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感想 : 70
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今年の私の読書テーマは「第三の新人」。
小島信夫は何年か前に読みましたが、今年は安岡章太郎、丸谷才一、吉行淳之介と読み継いできました。
これら4氏に比べると、やや影が薄いのが庄野潤三ではないでしょうか。
文学に興味のない人でも、安岡や吉行の名前くらいは知っているでしょう。
ただ、庄野となると、どうか。
でもねー。
実に良かったです。
家族の生活というものは、危ういバランスの上に辛うじて成り立っているものなのだと再認識しました。
妻と子のいる男なら、誰でも共感を覚えるのではないでしょうか。
まず、感心したのは、芥川賞受賞作の「プールサイド小景」。
会社の金を使い込んでクビになった男の話です。
男には妻と小学生の息子がいます。
妻は明日からの生活を考え、呆然とします。
それでも、いつもの日常と変わらず、夕飯の支度をします。
それを「何故だろう?」と考える妻の疑問は、とてもリアリティーがあります。
一見、幸せそうに見える家庭にも、人には言えない様々な事情がある。
そんなことを感じました。
もっとも会社の金を使い込むというのは極端ですが。
それから、何と言っても「静物」です。
夫婦と1女2男の家族の平凡と言えば平凡な話。
寓話的なエピソードが並べられる、何とも不思議な作品です。
正直に言って、私は初め戸惑いました。
こういう構成の作品は、特に日本人作家には珍しいからです。
自分の少ない読書体験からは、ブローティガンの「アメリカの鱒釣り」に近いかも、と思いました。
1つ1つのエピソードは、釣りをした話や親戚からクルミをもらった話など、確かに他愛無い。
ただ、途中でやや趣の異なる挿話(たとえば階下で女の泣き声がした話など)があり、作品全体に不穏な影を落としています。
いや、何とも独特の読後感。
「舞踊」も良かった。
第三の新人には、小市民的とかスケールが小さいとか揶揄する向きがあります(今はさすがにないか)が、どっこい奥が深いのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年5月2日
読了日 : -
本棚登録日 : 2018年5月2日

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