おひとりさまの老後

著者 :
  • 法研 (2007年7月1日発売)
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【感想】
本書は筆者が地域ケア等の実情を調査し、様々な角度から「老後の一人暮らし」について述べているが、大まかには次のことを述べていると言ってよい。

①高齢者の一人暮らしは意外と寂しくない。子どもと「一緒に住もうか」と言われることがあるが、それは介護ができるのにそうしない自分に対する自責の念から来るものだ。これを究極の愛情表現と勘違いしている人が多く、もし自責の念から同居したとしても、一ヶ月や一年もいい娘を演じられないし、親にとっても穏やかな老後を失うことになる。

②大切なのは「ちょうどいい距離感」である。パートナーとも、子ども夫婦とも、ケアワーカーとも入居者とも、「他人と関わりたいとき」と「一人でいたいとき」のバランスを取ることが大切である。誰かと毎日一緒にいることは一人の気楽な時間を失うということである。

③誰でも最後の瞬間まで自分の家で過ごしたいのが本音である。しかし、「家で過ごしたい」と「家族と過ごしたい」は違うものだ。多くの高齢者が施設から自宅に戻れないのは、介護を厄介に思う家族が家に住んでいるからだ。
例え親から薄情と言われようとも、一緒に住むことから距離を置くべきである。自宅で老人を一人暮らしにさせ、病院送りになるギリギリまで訪問介護を続けることも一つの解決策だろう。

④大切なのは家族や職場以外とのネットワーク。幸せな老後になるか孤独な老後になるかは自分次第である。


本書は約10年前に書かれた本であるため、現状認識も筆者の価値観もだいぶ古い。
本書は老後における独り身の自由さを説いているが、高齢者単身世帯の多くが、自由を謳歌できるほどの収入を得られていないことは勘案されていない。
平成24年版男女共同参画白書によると、65歳以降の高齢者における相対的貧困率は22.0%、一人暮らしの高齢女性の世帯では52.3%もある。本書がフォーカスを置く「おひとり様女性」の半分は貧困にあえいでいる状態だ。こうした貧困のほとんどは配偶者との離別によって引き起こされる。それは夫の受給する公的年金と妻の公的年金を合算できなくなるから、簡単に言えば二人分の収入から一人分の収入に落ち、生活コストが上昇するからだ。

筆者の言うとおり、年を取ってパートナーと離婚したり死別したりしても、子どもたち夫婦に頼らずに一人で暮らせれば快適だろう。しかし、収入の減少から、一緒に住まざるを得ないというのが現状である。

「子どもと一緒に住んで面倒を見てもらうのが幸せ」という価値観は、決して精神的な充足のみではなく、その背後に「豊かな暮らしができるから」というファクターがあったことを忘れてはいけない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年12月22日
読了日 : 2020年12月11日
本棚登録日 : 2020年12月11日

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